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5 もっと、したい




 パーティは遅くまで続いて、結局、二人で会えたのは11時を過ぎてからだった。早寝組が抜けるタイミングでお暇して、寝支度をしてから落ち合う。まだ、共有スペースでは騒いでいる声がしていた。
「待たせてごめんね」
「ンな待ってねぇわ」
 ぱっ、と現れた湊は爆豪の思った通り、黒い紙袋を手にしていた。音も立てずベッドに座るやいなや、「あの、これ……」と差し出されて、ムードもへったくれもなくて少し笑ってしまいそうだった。
「くれるんか」
「うん。クリスマスプレゼント」
 期待と不安が入り混じった視線に急かされて、箱を開ける。中にあったのは、スタイリッシュなデザインのベルトだった。
「ちょっと前に壊しちゃったって話してたでしょ? だからこれなら使うかなって思って」
「……ありがとな」
 その実爆豪は、壊してすぐに、毎日使うものだしさっさと新しいものを買ってしまおうとしていたのだ。しかし湊が下手な探りを入れてきたものだから、買うのをやめておいた。自分が使うはずもないメンズのベルトについていろいろ聞かれれば勘付くに決まっていた。
 まぁ、なにをもらうかわかっていたとて嬉しいものは嬉しい。それなりに上等なベルトを見つめて、「明日から使うわ」と言えば、湊はにっこりと笑った。
「じゃ、これは俺から」
 棚に隠していた紙袋を差し出せば、湊はまるで予想外だったみたいに目を見開いた。なんでだよ、プレゼント贈り合うんだから俺からあるのは当然だろ、と思ったが、きっと自分が何をあげればいいか考えすぎて、お返しがあることを忘れていたのだろう。
「あけていいの?」
「開けろや」
 感激して紙袋を見つめてばかりいるから、早くしろと急かせば、壊れ物を扱うみたいにそっと紙袋から箱を取り出して、開ける。暖かそうな、白を基調として淡い色合いのマフラーだ。
「わぁ、かわいい……!」
「今使っとるのよりはあったけーだろ」
「うん、あったかそう」
 寒がりのくせに大した防寒具も身につけていないから、地味に気になっていたのだ。浮かれてすぐに身につけ始めるから、崩れた髪の毛を整えてやる。思った通り、色合いはぴったりだ。
「ありがとう、うれしい」
「ン」
 言葉にされなくても、その浮かれた様子から察せられるけれど。素直にそう言われれば悪い気はしない。湊はいそいそとマフラーを箱に仕舞って、綺麗に紙袋へ戻す。箱にかけられたリボンまでちゃんと畳んでいた。
 紙袋を脇に置いたあと湊は何も言わないものだから、軽く俯いた顔を覗き込む。どこか不安そうに視線をうろうろさせていた。
「あの……クリスマスって、何するものなんだろう」
「ア?」
「ネットで調べたんだけど、デートしたり、お泊りしたりするんだよね。でも私たち寮だからデートは難しくて、お泊まりは……」
「ダメだわ」
「うん、だから、クリスマスって、何するものなんだろうって」
 こいつはまた難しいこと考えとんな、と爆豪はひとつため息をついた。真面目で素直だからこそこうなるのだろう。
 前も言ったが、と爆豪が話し出せば、なにか崇高な話を聞くみたいに姿勢がなおる。その姿に笑いそうになりつつ、その頬に手を伸ばした。
「俺らなりにしたいことすりゃいいだろ。クリスマスっつったって、別に何の変哲もないただの一日だ。かこつけて騒ぎてェからパーティーやらやってるだけで、特別なことをしなきゃいけないわけじゃねェよ」
 プレゼント交換は充分特別なことだけれど、よけいな事は言わないことにする。言われたことを噛み砕いているだろう湊の頬を撫でて、唇を塞いだ。ちゅ、ちゅ、とついばむように何度かキスをすれば、湊は頬を染めて、むぐ、と唇を動かす。 
「い、いまのは、したいからした?」
「そォ」
 真剣な顔で考えているのがかわいかったからした。とまでは口を滑らせなかったが、そうしたいからした。もう一度唇を重ねて、額同士をくっつけた。
「お前も、したいことすれば」
 ささやくように、からかう口調でそう言えば、湊はごくり、と唾を飲み下した。喉が動くのが触れた場所から伝わる。一体何をしてくるかと思えば、ベッドに下ろしていた爆豪の左手を取って、手が重ねられる。指をからめて、ぎゅっと握られた。
「ふ、そんだけでいいんかよ」
「手、つなぐの、好きだから……」
 もごもご、と口ごもりながらも手は離されない。爆豪のほうからも力を入れて、ぬるい体温を味わう。もう片手で腰を引き寄せる。服越しの体温も感じながら、キスを交わす。舌で唇を舐めれば、条件反射みたいに唇が開く。隙間に舌を差し込んで、舌を絡める。唾液まで甘く感じて、そんなワケねぇという気持ちと、こいつならありえる、という思考が混ざった。少しがっついて舌を伸ばせば頭ごと後ろにのけぞるから、逃さないとばかりに腰に当てていた手を後頭部へ回して固定する。
「ん、んう、っふ……」
 呼吸で精一杯と言わんばかりに、乱れた息とかすかな喘ぎが口端から漏れている。ぎゅっと閉じられた目、力の抜けた手。まだ片手で数えるほどしかしていないけれど、まだまだ慣れるには程遠そうだ。開放してやるか、と唇を離して、鼻先をくっつける。はぁ、と自分の吐いた息がいやに熱い事に気がついた。あァ、やべェな。冷静な部分があるうちに、離してやらないとまずい。そう思って、でも離れがたくて、握った手に力を入れては抜く。
 湊の方から離れやしないかと思っていれば、そろり、と開かれた薄水色の瞳からぽろ、と涙がこぼれた。それを見送る間もなく、ちゅ、と湊のほうから唇を合わせられる。

「……もっと、したい……」
 
 気がついたら、ベッドに押し倒していた。
 逃げないように両手をマットレスに縫いつけて、小さな身体に馬乗りになる。ぶちゅ、ぴちゅ、と官能的な水音が脳をかき乱して、身体の芯がマグマみたいに熱を持っている。あちィ、と馬鹿になった頭で思う。
「んん、んッ……はぁっ……」
 煽んな、と口をついてしまいそうなほど、男を誘う声を出す。何も知りませんみたいな顔をしておいて、爆豪の熱を上げてくる。意識しているつもりもないのに、片手が離れて湊の部屋着の裾を捲くった。下に着ているインナーの感触がして、その刹那、背後でがさ、バタ、と物音がした。
「あっ」
 はっと我に返る。何を考えるよりも前に、彼女の上から飛び退く。湊はぱちりと目を開けて、上気した頬に乱れた髪のまま、物音のほうを見た。どうやら、爆豪が置いていたプレゼントの箱を蹴ってしまったらしい。
「ご、ごめんなさい、蹴っちゃった……」
「……や、助かった」
 ハテナマークを飛ばしている湊は置いておいて、前かがみのまま反省する。完全に理性が飛んでいた。危ないどころの騒ぎじゃない。今のは、本当に襲ってしまうところだった。
 頭を抱えている爆豪を横目に、湊は置いてあったティッシュ箱からティッシュを出して、口の周りについてしまった唾液と頬の涙を拭っている。こいつ、何されそうだったか分かってるよな、と危機感を覚えた。確かめるのは墓穴になるとわかりきっているから、聞かないが。
「もう寝ろ」
「えっ……」
 残念そうな声出すんじゃねェ! と怒鳴りつけてしまいそうになって、はぁぁ、とため息で代替する。このまま続行するのは絶対に無理だ。ぺろりと頭から爪先まで、食べてしまう自信がある。もう一度、今日はもう寝ろ、と言えば、残念そうな声色は変わらないが「わかった……」と言って爆豪がプレゼントした箱を手にする。
「あのね、明日から私インターンだから……夜、電話するね」
「おー、わかった、10時な」
 努めて平静を装って返せば、うん、おやすみなさい、と名残惜しそうに帰っていく。ぱっと消えてしまうのを見送って、はぁあ、ともう一度大きなため息をついた。

 このままじゃやべェ。爆豪は少なくとも18になるまでは湊とそういうことをするつもりはないのだ。責任を取れる年齢になるまで我慢するのは、男の責務だ。この世に絶対なんてないのだから。
 でも爆豪とてただの男子高校生だ。触れたらキスしたいし、キスしたら舌を入れたいし、それ以上もしたい。理性が本能に負けてしまわないように、キスはいいとしても舌を入れるのはしばらく自重しよう、と心に誓った。





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