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4 メリークリスマス




 それはそれとして、湊がしたいことをするのは爆豪も反対できないはず、という結論に至った。ちょうど、クリスマス会のプレゼントを買い出しという、女子全員で出掛ける予定もあったのだ。
「カレシに見せるなら絶対カワイイパジャマがいい」
「カワイイってどんな? 爆豪ってどんなんが好きなんだろ」
 葉隠と芦戸が、自分の買い物そっちのけでルームウェアを見ている。当然ながら湊のである。今の湊のパジャマは何の変哲もない、少しよれたものだったので買い換える事自体に抵抗はなかったが、爆豪が何を求めているかと聞かれるとその答えは湊にはわからなかった。
「ちょっとえっちな、露出ある感じは? こういうさぁ」
「えぇっ。ううん……傷見えちゃうのは嫌だな……」
 胸元が大きくあいた、セクシーなものを手にした芦戸に、湊はそう返した。露出が増えるとその分、汚い身体が見えてしまうから避けたかった。爆豪は気にしないと言ってくれるが、きっと見たいものではないだろうし、ご両親に見せるのもはばかられる。
「あのさぁ、湊が着るものなんだからあんま口出さないほうがいいって」
 爆豪にキレられるよ、と耳郎が助け舟を出す。えー、と唇を尖らせて不満を思い切り表す二人に、蛙吹たちも苦笑していた。
「あ、でも、パジャマは新しく買おうと思ってるんだよ。今の、結構長く使ってるからみすぼらしいというか……」
「ほらほら! 湊がこう言ってるんだから!」
 別に湊はアドバイスがほしいとは言っていないのだが、二人は張り切ってしまって聞いていない。どうしようか、と苦笑していれば、蛙吹がトントン、と肩を叩いた。
「湊ちゃん、こういうのはどうかしら。ふわふわしていてかわいらしいわ」
 蛙吹の手にあったのは、ふわふわして手触りの良いルームウェアだった。パーカーと長ズボンのセットになっていて、とてもあたたかそうだ。
「上を脱げるから温度調整もできそうだし、なにより温かいわ。湊ちゃん、私と同じで寒いの苦手でしょう? だから、薄いものより良いと思うの」
「わ、かわいい」
 目に優しいパステルカラーで、ずっと触っていたくなるふわふわな触感。ひと目で気に入ってしまって、それを買うことに決めた。「爆豪くん、案外好きかもしれんね、そういうの」とお茶子が言っていたけれど、それはわからなかった。

 その後、各々クリスマス会のためのプレゼントを選んだ。湊はステンドグラスを模したきれいなブックマーカーを選んだ。誰に渡っても困らないものというのは案外難しい。学生なのだし、文房具なら誰でも使うと思ったのだ。
 そして、爆豪の家にお邪魔するという話ですっかり気がそれていたが、年末よりもクリスマスのほうが先に訪れる。湊はイベントごとには疎いが、「クリスマスの夜一緒に過ごすの?」なんて既に芦戸たちから聞かれている。根堀り葉掘り聞かれるのは困ることもあるが、こうやって先回りしてイベントごとを教えてくれるのはありがたい。ネットで調べてみたところ、クリスマスにはカップルが一緒に過ごしたり、プレゼントを贈り合うのが普通なのだという。そう、プレゼントだ。
 爆豪は記念日に髪飾りをくれた。湊は物を返してはいない。色々考えた末に、喜ばれるものを選べる自信がなかったのだ。今回はそうもいかないから、実は月頭からずっと頭を悩ませていた。
 何をあげたら喜んでもらえるか。湊のたどり着いた結論は、「今ちょうどほしいものが手に入ったら喜ぶはず」だった。だからこの数週間の間、爆豪の持ち物を注意深く観察して、自分以外の人との会話にも耳を澄ませた。そしてなんとかたどり着いた。
 「爆豪、お前ベルトは?」「バックルぶっ壊れた」と切島と爆豪が話しているのを目撃したのだ。湊はメンズファッションに詳しくないが、ベルトなら皆同じようなものをしているから、そこまでセンスを問われないだろう。天啓だ、とばかりに喜んで、たくさんネットで調べて店頭に行き、それなりの値段のものを手に入れた。
「ふたりとも、ありがとう」
「いいえ! お力になれたようで何よりですわ」
「爆豪、喜んでくれるといいね」
 下調べから買い出しまで付き合ってくれた八百万と耳郎に礼を言って、メンズファッション売り場を後にする。一人で買いに行ける気も、目当てのものを手に入れられる気もしなかったから付き添ってもらったのだ。同じようなものばかり並んでいるように見えて、しかも人の目が気になってソワソワしたので、来てもらって正解だった。
 紙袋を両手で持って、大事に抱えた。明らかに男物のプレゼントが入ったそれを、合流した女子勢、というか主に芦戸と葉隠に茶化されたのは言うまでもない。




 12月24日、夜。料理やケーキが用意され、浮かれてサンタ服まで身にまとって、1-Aの共有スペースではクリスマスパーティーが執り行われた。
「Merry Christmas!」
「聖夜だ聖夜ー!」
 一人一つ、名前の書いた紙コップにジュースを持って乾杯する。わいわいがやがやとした雰囲気が楽しくて、何があるわけでもないのにふふ、と笑ってしまう。ソファの隣に座っていた耳郎が「楽しいね」と声をかけてくれた。
「標葉さん、料理ちゃんと届いてる?」
「口田くん、ありがとう。大丈夫だよ」
 すぐそばで立って配膳係をしている口田にそう言って、手元の紙皿に乗った料理を見せる。クリスマスといえばフライドチキン、といって用意されたそれを確保していたのだ。
「インターン行けってよー。雄英史上最も忙しねェ1年生だろコレ」
 テーブルの向かい側にいた切島がそう言って、話題が移り変わる。つい先日学校から、年明けからインターンへ行くようにと案内があったのだ。今回は希望者だけではなくて、1年生全員。湊は今までと変わらないから良いものの、皆は生活が変わることに不安もあるのか、最近は事あるごとにその話題が出ていた。
「二人はまたリューキュウだよね」
「そやねぇ。耳郎ちゃんは?」
「ウチは……考え中」
 必須ということで、以前のようにコネクションのあるところへ自分でアプローチをするだけではなく学校からも紹介があるようだ。そうだとしても、インターン組以外は職場体験先に声をかけてみたりと忙しくしている。
「爆豪はジーニストか!?」
 切島がそう言って、爆豪が「ア?」と反応する。何が何でもサンタ帽子を被せたい上鳴と芦戸との戦いに敗北した様子の爆豪が、「……決めてねェ」と静かに言った。
「でもまー、おめー指名いっぱいあったしな! 行きてーとこ行けんだろ」
「今更有象無象に学ぶ気ィねェわ」
 その言い方に、爆豪はなんだかんだとベストジーニストのことを気に入っているというか、師として悪く思っていない事が知れた。ベストジーニストは、つい最近行方不明だと取り沙汰されたばかりだ。何事もなければいいけれど、と湊は何も言わず、目をそらした。
「くっそー、こうなったら最終手段! 湊! 立って!」
「うん?」
 芦戸にそう言われて、反射的に立ち上がる。もたもたと食べていた肉を紙皿ごと、テーブルの端に置いた。
「コレ持って!」
「うん?」
「んで、こう言うの! 勝己くん、これ着てって!」
 手渡されたのは、赤いサンタ服。湊が着ているものと同じだ。サイズはこちらのほうが大きい。どうやら、何度トライしても爆豪にサンタ服を着せることができないから、痺れを切らして湊に交渉させることにしたようだった。
「でも……爆豪くん嫌がってるからだめだよ」
「嫌がってるわけないじゃん! だって湊とお揃いだよ? 湊だってお揃い嬉しいでしょ?」
 芦戸にそう言われて、確かにお揃いは嬉しいな、という気持ちになってしまったのがいけなかった。返答が遅れてそれがバレてしまって、芦戸がニヤリと笑う。
「ほらほら爆豪、湊がお揃いにしたいって言ってるよ!」
「い、言ってないよ……!」
 でもお揃い嬉しいんでしょ? と言われてしまえば、嘘はつけない。嬉しいことには嬉しいに決まっていた。でも、と口籠もっていたら、爆豪の手が伸びてきて湊の手から服を引ったくった。
「ウッゼェ! 着りゃいいんだろが!」
 ヒューヒュー、と茶化してくる上鳴たちを威嚇しながら、爆豪は上着を羽織る。帽子も不本意そうに被って、湊に何かを言うこともなくどすん、と空いていた椅子に腰掛けた。
 悪いことしちゃったかな、と思っていたところで、寮の扉が開く。「遅くなった、もう始まってるか?」と言いながら、相澤がエリちゃんを連れてやって来た。エリちゃんはクリスマス衣装をまとっている。
「とりっくぉあ……とりとー……?」
「違う、混ざった」
 湊も立ち上がって、そちらへ向かう。「おにわそと、おにわうち」と言っている姿に、「メリークリスマスだよ」と言えば、エリちゃんは「めりー……くりすます……」と復唱した。かわいい。
「たまごに絵かいたの」
「それはイースターやね!」
「でも、絵上手だね」
 湊は実は絵が苦手で、エリちゃんと遊んでいても何ならエリちゃんのほうが上手いくらいだった。お茶子とともにソファに案内して、料理を一緒に食べる。何が食べたい? と聞くと、「とりさん……くりすますは、とりさんだって聞いたの」と言うから、湊は手を伸ばしてフライドチキンを手に取り、エリちゃんの前の紙皿に置いてあげた。
「湊さんはたべない?」
「食べるよ。でもとりさんはさっき食べたから、こっちにしようかな」
 サンドイッチを手にとって、エリちゃんの隣に腰掛けた。サンドイッチを咀嚼しながら、エリちゃんの「おいしい」に「おいしいね」と応えた。




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