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17 わかりますか




 結局、状況整理していれば「ぱち」となにか脳内で軽い音が聞こえた気がして、そのタイミング以後は正常に個性を使えるようになった。どうして18時間も寝てしまったのかは当然湊もわからなかったが、爆豪が「絶対に病院に行け」と強く言ったので逆らうこともできず、なるべく早く病院に行くことを約束した。
 
「えぇ!? 湊今まで寝てたの!? ホントに!?」
「うん……お騒がせしました……」
 夕食時に起きてきた湊に、クラスメイトたちは驚愕と心配の入り混じった言葉をかけてくれた。八百万と耳郎が「個性研究のために今日はいっぱい寝るかもしれないから心配しないで」と言われていたから放置していた、と皆に説明してくれたおかげで、爆豪の部屋でずっと寝ていたことは知れ渡っていない。それが知られると少々面倒がありそうだったので、根回ししてくれた3人には頭が上がらない。
「今まで寝てて夜寝れるん?」
「昼夜逆転してしまわないか心配ね」
「たぶん、大丈夫。最悪、前に眠れないときにもらってた睡眠薬があるから」
 たくさん寝てかなりスッキリしている。ので、健康的には問題がなさそうだ。じっとこちらを見つめる爆豪と目線が合って、もちろん病院には行きます、と内心で言い訳をした。起きてから謝り倒したし礼も言ったけれど、この一日かなりやきもきさせてしまったせいでまだ少し心配されている、というかまた健康自己評価への信用が地に落ちた気がしている。

 病院に行って先生に見てもらうことが一番ではあるけれど、今回のできごとについて、湊は自分なりの仮説を立てていた。やはり湊の個性は本当は2つあって、それが「脳の活性化」と「空間系個性」なのだ。これを個性の複数持ちと呼ぶのかよくわからないが、おそらく分類するなら轟と同じハイブリッド型。そこそこ珍しい、両親の個性が混ざらず、平等にふたつ受け継いだタイプ。本来、この2つは発動タイミングもそれぞれ任意で決められるもの。でも湊は今までそんなこと意識をしたこともなく、頭脳系に関しては発動していることすらあまり気がついていなかった。
 今回、自分で意識して個性を発動しない状態に持ってきた。相澤にきっかけをもらって、爆豪の隣で眠ったときに脳は完全に個性が発動していない状態だった。酷使された脳は与えられた休息に驚きつつも心ゆくまで休んでしまって、こんな状態になったのではないか。起きたときすぐ個性が使えなかったのは、長時間休みすぎて今度は個性が発動しにくくなっていたから。状況整理に頭を使い初めてすぐ個性が戻ったことにもそれで説明がつく。
 その晩も、皆には心配されたけれど、眠れないことも起きられなくなることもなく。むしろ頭がすっきりして、調子がいいくらいだった。

 
「ずっと再起動していなかったパソコンって、再起動にものすごく時間がかかったりするんだよ。アレだね君のそれは」
 私パソコン持ってないです、という突っ込みをするのは一旦やめて、湊は個性科の先生の話を聞いた。
「脳波や検査ですべてが分かるわけではもちろんないけど、君のはこういうことだろうと思うよ。本来なら発動型の個性が、幼少期の生存本能で常時発動しっぱなしで戻らなくなってしまった。身の危険を感じたり、感情の高ぶりで個性が発動してしまうのは子供にはめずらしくないからね。その状態のまま君は大きくなり、今に至ると。個性ありとなしの脳では、ものごとの処理スピードも明らかに違う。ただ、正直なところ個性なしの脳でも日常生活を送れるし、学業にも支障はないと思うよ。学力で例えるなら、個性なしの脳でも雄英に受かるが、個性ありで雄英でも抜きん出た頭脳になる、という感じかな」
「ということは、何の異常もなく、むしろ脳を適当につかえていて良い状態、ということで合ってますか」
「合ってるよ。今後気をつけるとしたら、ヒーロー活動以外は個性を使わないようにしてみることかな。今の状態は以前より脳に負荷がかからない良い状態だから、この調子でできるだけ脳の負荷を下げられるように」
 相変わらず歯に衣着せぬと言うか、ズバズバとものを言う人だけれど、以前のアドバイスはかなり的を得ていたので湊はすっかりこの医者を信用していた。湊の仮説通り、納得の行く説明をいつもしてくれるのも良い。

 問題ないのお墨付きをもらって、それを相澤にも、爆豪にも報告する。結果次第では週末のインターンは中止、と言われていたので死活問題だったのだ。
 まだ自分の意志で個性の発動をやめるまでには至っておらず、戦闘とは縁遠い気を抜いた状態に長くいると、ぱち、と脳内で音がして(いる気がするだけかもしれないが)個性の発動が止まる。理想は自分の意思で個性を止めて、自在に個性が使えるようにすることだが、そこに至るのはまだ遠そうだ。
 それでも、かなりの前進だと胸を張れた。再度試させてもらったけれど、もう一度爆豪とともに寝ても普通の睡眠時間で起きられたし、本当に支障は何もなくただ自分の個性が使いこなせるようになっている。努力の方向性が定まって、とてもすっきりした気持ちだった。

 
「あれ、何か個性上限伸びてません?」
「……! わかりますか」
 その後、インターン先でもホークスに指摘された。昼過ぎにへばっていたのが、調子によっては定時内ずっとホークスの後をついて回れるようになったからだ。相変わらず対処能力はお世辞にも高くないけれど、最速の男と並んでいられるというのはすごいことで、サイドキックたちにも「すごかね」とお褒めの言葉をいただいた。「諦めない姿勢すごいね」という意味合いも込められていたことには、ちっとも気が付かなかった。
 



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