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12 ちゃんと見てるね




 負傷者多数、ステージ大破のためか、湊たちが戻ってもまだ第4セット組はOZASHIKIにいた。各々チームごとにまとまっている中、少々緊張した面持ちの耳郎に近寄る。
「響香ちゃん、がんばってね」
「ウン、あんたすごかったし、続けるように頑張るよ」
 また謙遜が口をつきそうになったのを、ぐっと堪えて口をもごもご、と動かした。ちゃんと活躍できたのだから、褒められて嬉しい、でいいのだ。反省があるのは事実だけれど、すぎると自虐になってしまうのだから。
「ほら標葉、カレシにもエール送ってやんな?」
 ひょこっと顔を出した瀬呂が、ヘルメットの下でにやにやしながらそう言う。爆豪はそれを聞いてビギ、と額に青筋を浮かべて瀬呂にブチギレている。
「しょうゆゥ!! ぶっ殺されてェみてぇだなァ!?」
「いやいや、爆豪も嬉しいっしょ? ほら標葉、勝己クン頑張れ、カッコイイとこ見せてって言ってやれよ」
 まるで湊を盾にするみたいに瀬呂はさっと背後に回って、目を吊り上げた爆豪と向かい合う。でも、正直、そんなことを言う必要性が感じられなかった。頑張れなんて、そんなこと。
「勝己くんはいつもかっこいいし、私が言わなくても強くてすごいから。ちゃんと見てるね」
 前半は瀬呂に、後半は爆豪に向かって言ったつもりが、その場にいた砂藤と耳郎含めて全員が固まった。至極当然のことを口に出したつもりなのに、空気がおかしくなってしまったものだから「えっ」と困惑してしまう。
「こ、コエェ……天然って怖……爆豪お前大変だな……」
「ングググギギギ…………!! 何ッも大変じゃねぇし怖くもねェんだよクソ……!!」
「なんかわかんないけどウチが恥ずかしくなってきた」
「標葉すっげぇな……」
 おろ、と戸惑っていれば、耳郎が「あんたはそのままでいいよ……」と肩に手を置いたので、よくわからないけれど深く考えるのもやめた。ちょうどいいタイミングで、ブラドキングが「第4セット組! 移動しろ!」と号令をかける。
「あ、いってらっしゃい」
「行ってくるね」
 ひらり、と耳郎に手をふって、後ろに続いた瀬呂・砂藤にも振る。爆豪にも振ったが反応するでもなくじっと湊の顔を見ていたので、首をかしげる。どうしたの、と声をあげるまえに、ぽん、と頭に手が置かれた。
「まァ、ここで見てろや」
「うん。ちゃんと見てる」
 言葉だけ交わして、手は振り返されることなく、爆豪は去っていった。第2セットのケガから帰ってきた八百万がいるのを見つけて、そこに走り寄って隣を陣取った。
「大活躍でしたわね、湊さん」
「ン……そう、うん……ありがとう。百ちゃんもいい作戦だったと思う。やっぱり参謀だね」
「いいえ、まだまだでしたわ」
 そうして話をしていれば、「位置についたら始めるぞ! 第4セット、スタートだ!』というブラドキングの合図とともに、第4セットが始まる。A組:砂藤、耳郎、瀬呂、爆豪 vs B組:泡瀬、鎌切、取蔭、凡戸という対戦カードだ。
「あああ後がないよ、負けか引き分けになれば”勝”てないよもう!」
 なにかの発作みたいに叫びだした物間に、びっく、と湊の体が跳ねて八百万が「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。急に叫びだす物間は少し苦手なのだ。
「あー僕この第4セット楽しみだったんだよねぇぇ。なんたってあの取蔭がいるからねえーーー! ねえ爆豪くん!!」
 この場にいない爆豪に話しかけ続けている物間に、こちらの声はマイクを通さないと届かないとだれか教えてあげないのだろうか、と思った。湊は怖いので遠慮させてもらう。

 相変わらずの偏向実況を流し聞きながら、何かを怒鳴りつつ入り組んだ工場地帯を行く爆豪を捉えたカメラを目で追う。ボンボン、と爆発を繰り返して推進力とし、空中を進むさすがの機動力だ。その後ろを、耳郎たちが追いかけている。
 先行した爆豪がなにかに気づいて、「止まれ!」と叫んで動きを止める。耳郎が索敵を開始して、少しで「やっぱやられた!」と焦燥とともに言う。爆豪の背後には、取蔭の顎が浮かんでいた。
「あの個性、発動中はどうやって脳に酸素を運んでいるんだろう」
「不思議ですわね。持続時間も気になりますわ」
 何十にも分割された取蔭の体が、爆豪を襲う。うざがる爆豪に、瀬呂が地形を生かしてテープを罠のように使い、安全地帯のようなものを作って爆豪を呼ぶ。
 それを狙っていたかのように、凡戸がその上から接着剤を降らせて、一体を接着剤だらけにした。テープが逆効果になって、瀬呂たちはうまく身動きが取れなくなっている。一旦退避しようとした瀬呂たちを、今度は鎌切が襲う。
「A組の動きが全部逆手に……!!」
 確かに、やることなすことすべて読まれているみたいだけれど。策というのは、ある程度実力が拮抗していて、相手戦力の実力が評価の範囲内でないと通じないのだ。圧倒的な格上には小細工なんて通じないし、想像よりはるかに相手が出来たりする場合は不確定要素のために破綻する。だから事前情報が大事だったりするわけで。
 BooM、と爆音が障害物を蹴散らす。それを見て、視界が拓けたと耳郎に突っ込んできた鎌切に、爆豪がまるでそれすらわかっていたみたいにして、二人の間に入り込んで鎌切を爆破する。
『防いだかよ! 虫は反射が速えー、なァ!?』
「かっこいい……」
「ふふ、そうですわね」
 離れたところで物間が「キャラを変えたっていうのか!!」と叫んでいる。たしかに、前までの爆豪はあからさまに誰かを助けるなんてこと、しなかっただろう。自分が敵を倒すことが絶対揺るがぬ第一目標だった。

 湊の目には、爆豪は完成されたものみたいに見えることがあるけれど、そうではないことはもうちゃんとわかっていた。爆豪とて、入学時点からたくさん努力して、成長しているのだ。だから湊がどれだけ前に進んだつもりでも、ずっとずっと、いつも先にいるように見える。ただし、遠くにいるけれどずっと、湊のことを見ていてくれている。だから、湊も絶対に見失ってしまわないように、眩しくてもずっと見つめている。
 
『授業だろうが何だろうが関係ねェーんだよ。決めてンだよ俺ァ! 勝負は必ず完全勝利! 4-0無傷! これが、本当に強ぇ奴の”勝利”だろ!』
 勝ち気な笑みを浮かべて、そう言い切る姿のなんと輝かしいことか。自分のなりたい姿を思い描いて、それを叶えるためにどんなことでもする。きらきらしていて、まぶしくて。湊もあんなふうになりたい。隣に立つことを許してくれるからこそ、隣に立ってもその輝きに消されてしまわないような自分でいたい。

 逃げる凡戸を追う爆豪が入り組んだ場所に入った瞬間に、現れた泡瀬が個性で鉄柱に爆豪をくっつけてしまう。しかし、追ってきた砂藤がそれを砕いて、そして遠距離攻撃には太刀打ちできない泡瀬のことは爆豪が囮となって耳郎が仕留める。
 機動力のある個性ではない凡戸が、爆豪に追われて逃げられるはずもなく。汗をかいて調子の上がってきた爆豪に一瞬で爆破されて、砂藤に確保された。
「耳郎ちゃんたちも、信用してるから任せられるんだ」
「ドラムが効いたな」
「バンドが効いた」
 お茶子が言って、それに続いて切島と上鳴が同意を返す。なんだか、A組で過ごした軌跡が形を持って目に見えるみたいで素敵だ。
 隠れていた鎌切を耳郎が見つけ出して、爆豪が相変わらずの高火力で一瞬の内に伸す。瀬呂が機転を効かせて空中の取蔭の本体のほど近くで爆発音を起こして、それを聞きつけた爆豪が至近距離で閃光弾をかまして、全員戦闘不能。これ以上ないほどの、完全勝利だ。
 
『わずか5分足らず……! 思わぬチームワークでA組、4-0の勝利だ!』
 けが人もいないため全員揃って帰ってきた4人を、わっと皆で出迎える。
「かっちゃん! おめー、やりゃできるのなァ!」
 上鳴がそう言って騒ぐのをガン無視している爆豪にオールマイトが近寄って、なにか言葉を交わしていた。ついで、緑谷とも。
「私、勝己くんにいつか、追いつけるのかな」
 その姿を見ていたら、ぽろり、と本音が漏れた。別に、八百万に問いかけるつもりはなかった。ただ本当に、正しくライバルのような関係を築いている緑谷を見ていたらこぼれてしまっただけだ。
「案外、もう近くにいるのではないでしょうか」
「えっ?」
 八百万の言った意味がわからなくて聞き返したつもりだったけれど、八百万からは微笑みが返ってくるだけだった。





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