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10 信じてたもん




 反省を述べよ、と言った相澤に、五人五色の反省を述べた。上鳴のは反省ではなかったけれど。
「インターン行ってた二人はシリアスだね☆」
「ジャミングウェイの素っ頓狂っぷりが浮いてる」
 ぷくく、と笑っている耳郎は突っ込まれず、相澤はそれぞれに講評を述べた。湊も気が引き締まる。その場に応じた判断をして、得意に持ち込む戦法を立てること。この5人で何ができるか、相手が4人で何をしてくるか、全て考えないといけない。
「俺たちも煮詰めよう!」
「轟を軸に動こうか」
「俺か」
 第3チームも固まって、作戦会議を始める。湊は序盤加われないのだが、作戦は頭に入れておいたほうが良い。
「轟くんの範囲攻撃で相手の行動範囲を狭めるのは良いと思う。あっち、近距離が二人で遠距離が一人だし……」
「骨抜がなぁ。地面柔らかくされるの結構キツいと思うんだよ」
 確かに、空中戦ができるのは湊しかいないので、キツいというのもあながち間違ってはいなさそうだ。
「じゃあ、合流した時に骨抜くんがまだフィールドにいそうなら優先して相手する」
「そうだな、得意をぶつけるのならそれがいい。空中に足止めされたら、骨抜は何もできないはずだ」
 湊が最初から加わるのなら、近距離型が多いこのチームで参謀をするのも面白そうではあるけれど。援軍扱いとされるなら、それはきっと望まれた動きではないのだろう。先生も難しいことを言うなぁ、と湊は少しむくれてしまう。
「つか、お前得意だろ、状況判断して最適な行動を取るとか。だから、お前はその場に応じて動けば良い」
「……う、うん。ありがとう」
「まぁ、俺らがそれより前に勝っちまって仕事ねぇかもしれねぇけどな」
「いらない一言すぎる……」
 轟にそう言われて嬉しかったのに、余計な一言にまたむっと唇を尖らせる。「喧嘩すんなって」と尾白が間に入った。

「では第2セット! チーム2! 準備を」
 葉隠が元気に「行ってくるねー!」と言っているのに手を振って、湊は八百万をエールとともに送り出した。
「百ちゃんの試合、ちゃんと見ないと」
 このクラスで最も参謀ポジションに最適なのが八百万だ。チーム2は直接攻撃型の個性が少なく、使い方が難しいチームだと思うが、だからこそどういう戦略で組み立てていくのか興味があった。
「それでは、ガンバレ拳藤、第2チーム! スタート!」
「偏向実況やめろー!」
 ここまでくると笑えてくる。ウケ狙いでやっているのではなかろうか。
「拳藤ってB組でどういう立ち位置なん」
「おう!」
 少し離れたところで、瀬呂と鉄哲が話しているのが、鉄哲の声が大きいせいで丸聞こえだった。
「ありゃあやる奴だぜ!」
「声がでけェ」
「なんたって委員長だからな! 頭の回転早くてとっさの判断も冷静だ! それでいてクラスをまとめる明朗な性格! あれがいなきゃ今頃皆、物間に取り込まれてら!」
「オイオイ言い方」
 瀬呂の苦言も物間の文句も聞こえないふりで、鉄哲は拳藤を絶賛する。
「B組の姉貴分、それが拳藤一佳という女だ!」
 なんだか、それだけを聞くと八百万と似たところがあるのかもしれない、と黙って考えていれば、轟が「とっさの判断、か」と呟いたのが耳に入る。
「八百万のオペレーションがうまく刺さるかどうか……」
「オペレーション」
「戦略のことだよ」
 頭上にはてなを浮かべる尾白に一言付け加えて、画面に視線を戻す。

 戦場では、常闇がダークシャドウを伸ばして索敵を行っていた。単独で行動させることで索敵も行えるとは、やはりかなり強力な個性だ。しかし、戻ってきたダークシャドウはいきなり、常闇へと襲いかかった。常闇の体内へ消えていったダークシャドウの中から、B組の黒色が出現する。彼は黒に溶け込める個性なのだ。
「単騎で突っ込んでくるなんて……すごい度胸だね」
「さっきの一戦目と同じ展開でくるとは!」
「裏の裏か」
 確かに、この入り組んで影だらけの場所で黒色をうまく捕らえるのはかなり難しいだろう。だからそういう意味では、正しい戦略なのかもしれない。
 黒色の狙いは常闇。そう、全員が無意識に思い込んでいた。しかし、予想外にも黒色は、青山のマントをひっつかんで、そのまま連れてB組テリトリーへと戻っていってしまう。「ヘーーーーーーゥプ!!」という青山の声が、ドップラー効果がかって聞こえる。
 このチームに機動力のある者はおらず、誰も追いかけられない……と思っていたが、常闇はダークシャドウに自らを抱えさせるという新技の「黒の堕天使」で黒色を追いかけ、青山を奪還する。
「常闇すごいな。あれもインターンで身につけたんだろうか」
「ホークスのところでやるなら、空飛べないとついていけないから、そうだと思うよ」
「え、標葉さんも空飛ぶの?」
「……擬似的に? 落ちる前に次のところにテレポートすれば、似たようなことは」
 ちなみに、空中で体勢を保つのは案外難しいため、遅くとも1秒以内には次をテレポートしていないと無様な結果になる。可能であれば足場のあるところをぴょんぴょんしたほうがいい。なので、空を飛ぶという表現は厳密には間違っている。理屈が知りたいわけではないだろうから、余計なことは言わないが。

 八百万の指示で、青山がネビル・ビュッフェを繰り出したことで影の形が変わり、黒色が思うように動けなくなる。それでA組が優位に、と思った矢先、八百万の鼻先にポン、とキノコが生えた。
「ウヒェエ! なにあれ、こわっ!」
 芦戸が大声で恐れおののく。画面の中は、一瞬のうちにきのこまみれになってしまった。
「……これ、やばいかも」
「え、どうして?」
 湊がぽつり、と呟いた言葉に、尾白が反応した。
「キノコって、人間にも生えるんだよ。気管支の中に住み着いて、咳が止まらなくなったり、体内で生えてお腹が痛くなったり。あの場で空気を吸い込んでいる以上、体内に胞子を取り込んじゃっているだろうし……」
「こっわ! さすがに授業でそんな事しないだろ……!?」
「わかんないけど……」
 キノコが体内に生えるというのは、過去に外国で症例があるのだ。気管支の症例は日本でもある。最も強い手はそれだが、流石にそれは初見殺しが過ぎて、禁じ手としているだろうか。もしくは、倫理的に問題とか。
 表皮にキノコが生えてしばらくしているが、今のところ八百万たちが咳き込んだりしているようには見えなかった。「標葉って発想が修羅の国育ちだよな」と、話を聞いていた瀬呂に言われてしまって少し反省した。最悪の想定をしすぎたかもしれない。

 キノコ攻めによってチームワークが乱れる。「皆さん落ち着いて、まずは一かたまりにーー」と八百万が言ったそばから、ドドドドドド、と大きな音とともに巨大な何かが降ってきて場が混沌とした。吹出の個性だ。しかも最悪なことに、その壁によって八百万だけが分断されてしまった。そこに、チャンスとばかりに拳藤が降ってくる。
 あぁ、と湊は少し胃が痛くなる。近接主体との一対一なんて、逃走という手段を持つ湊でも避けたいシチュエーションだ。八百万はもっと近接が苦手なタイプ。最悪だ。
「あっという間に有利な状況をつくり出しやがった! これがうちの拳藤さんよ!」
「最善手かはわかんねェな」
 自慢げにする鉄哲に、轟が冷静に言う。
「八百万を警戒しての分断なら、見誤ったかもな」
「え!?」
 どういうことだ、と湊ですら思った。分断はされないほうがいいはずなのに。轟には何が見えているのだろう。
「轟くん、どういう……」
「あいつを警戒すんなら、4人の総力でまっさきに潰すべきだった」
 窮地からの組み立て、あいつ得意だろ。そう言われて、ぐっと口をつぐむ。たしかに、八百万はチームが勝つための勝ち筋を、何十通りと、もしかしたら何百通りと考えていたはずだ。長く参謀としてそこにいるだけでも脅威になる存在なのだ。だから、轟の言うことはただしいのだけれど。

 画面の向こうでは、八百万が大きな大砲を創造して壁の向こうへと発射した。それを受け取った常闇が開くと、滅菌スプレーとサーモグラフゴーグルが入っていた。それらを用いて、一瞬で黒色と小森を捉える。
 しかし、湊が恐れていた通り小森の気管支攻めによって形勢は逆転。吹出を押していた葉隠も拳藤によって捉えられてしまって、B組の勝利で第2試合は幕を閉じた。
「面目やくじょだ拳藤ー!」
「……また弱気になんねぇといいが……」
 どこまでも八百万のことを案じて、信頼したそのセリフに、む、と悔しい気持ちが湧いた。
「……私だって、百ちゃんのこと信じてたもん」
「? おぉ。お前仲いいもんな」
「私だって……私が一番、百ちゃんの実力、信じてたもん……」
「どうしたんだ?」
 どうしたんだろう。わからないけれど、なんだかそうやって轟のほうが八百万のことを理解しているようなのが、悔しかったのだ。どうして悔しいのか、さっぱりわからないけれど。
 湊も、轟すらもなぜかわからないままで、次はもう湊たちの第3試合だ。少しもやっとしたのは振り払って、拳を握って気合を入れる。ステージがぶっ壊れてしまったので、移動もかねて休憩を挟んでからの開始となるらしい。
 ガヤガヤ、と各々が交流に花を咲かせている。湊は端でそれを眺めながら、集中するために少しだけ、呼吸を整えていた。視界の端に、オールマイトと緑谷が二人で話しているのが見える。いつもながら仲良しな二人だ。そこに、爆豪が寄っていってしかめ面で会話に加わる。勝己くんも仲良しだなぁ、と思って見ていたけれど、「何笑っとんだそういうのがマジでイラつくんだやめろくそが!」と息もつかぬ怒号が飛び込んできて苦笑した。





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