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9 本当に思ってますか?




「さむい……」
「まだ11月だよ? これからどうすんのさ」
「これ以上着込んだら動きにくくなるんだもん……」
 寒空の下、A組生徒たちはコスチュームに着替えて、運動場γに集合していた。入学して初の、クラス合同授業を行うためだ。
 気温がぐん、と寒くなったこともあり、周囲も冬コスチュームに着替えていた。マントがついたり、ファーがついたりと、寒さ対策がメインの改修だ。湊は生地が少々冬仕様になった程度で、仮免時の改修から大きく変化はない。それにしても寒い。マントを羽織った八百万が、「一緒にくるまりますか?」と優しく声をかけてくれた。
「脚しまったらどうかな。寒そうだし」
「……うん。でもここを隠したら全身布づくめになっちゃうなって」
「個性に影響ないなら布づくめでも問題なくねぇか」
 近くを歩いていた尾白と轟からそう言われて、やっぱり脚もしまった方が寒くないか、と少し考えた。八百万も葉隠も脚が出ているが、個性の関係で出したほうが有利だからだ。
「湊ちゃんは、真っ黒になるのが嫌なのよね。肌色のタイツとかでも防寒にはなるんじゃないかしら。遠目で見たらわからないわ」
「なるほど。そうしようかな」
 アドバイスをもらいながら、運動場を進む。少し拓けた場所に到着するや否や、「おいおい、まーずいぶんと弛んだ空気じゃないか」とこちらを煽るような声が響いた。
「僕らをなめているのかい」
「お! 来たなァ! なめてねーよ! ワクワクしてんだ」
 切島がガチン、と音をたてて手のひらと拳をぶつけた。その先に、ひとかたまりになったB組がコスチューム姿で立ちはだかる。

「さァA組! 今日こそシロクロつけようか!?」

 物間がほぼリンボーダンスのような体勢でそう叫ぶ。実は湊は彼のことが少し苦手だったりする。というか怖い。なにかに取り憑かれているみたいで。
 なんなら、絡みの少ないB組は半分くらい苦手意識が強い。何を話せばいいかよくわからないのだ。八百万の後ろに隠れるみたいにして、じっと黙っていた。
 ギャンギャンうるさい物間が、相澤に捕縛布で首を締められて黙らされる。やっとのことで、本題に入りそうだ。
「今回、特別参加者がいます」
「しょうもない姿はあまり見せないでくれ」
 ゲスト、という言葉に盛り上がりを見せる生徒たちを無視して、先生たち二人は先に進める。
「ヒーロー科編入を希望してる、普通科C組心操人使くんだ」
「あーーーーーーー!!! 心操ーーーーー!!」
 姿を表した心操の姿に、体育祭の騎馬戦で一緒になったあの、と、もうはるか昔のように思える記憶を引っ張り出す。あの時の言葉でいろいろ傷ついたりもしたなぁ、といらぬ事まで思い出した。
 相澤に「一言挨拶を」と促された心操は、特に緊張した様子もなく、不遜な面持ちのままで口を開く。
「何名かは既に体育祭で接したけれど、拳を交えたら友達とか……そんなスポーツマンシップ掲げられるような、気持ちの良い人間じゃありません。俺はもう何十歩も出遅れてる。悪いけど必死です。立派なヒーローになって、俺の”個性”を人の為に使いたい。この場の皆が、超えるべき壁です。馴れ合うつもりはありません」
 鬼気迫るその挨拶に、ヒーロー科生徒は拍手しつつも少し気を引きしめた。「初期ろきくんを見ているようだぜ」と瀬呂が言って、「そうか?」と轟が首を傾げている。
 ちらりと視線をやった心操とばっちり目が合ってしまって、気まずくなって逸らす。よく考えたら湊はいつも誰かの背ばかり負っていて、こうして追われるようなことはなかったからどうすればいいかよくわからなかった。

「じゃ早速やりましょうかね」
「今回はA組とB組の対抗戦! 舞台はここ、運動場γの一角! 双方4人組をつくり、一チームずつ戦ってもらう!」
 四人ずつ。ということは端数が出るA組はどうするのだろう、そもそも心操はどのチームに、という疑問には、間髪入れずに先生が答えた。
「心操は今回2戦参加させる。A組チーム・B組チームそれぞれに一回ずつ。それと、A組は1組5人のチームを作る。つまり5試合中3試合は5対4の訓練となる」
「そんなん4人が不利じゃん!」
「ほぼ経験のない心操を4人の中に組み込む方が不利だろ。あと、A組の半端については対策を講じるから安心しろ。5人チームは数的有利を得られるが、ハンデもある」
 今回の状況設定は、敵グループを包囲し確保に動くヒーロー。A組・B組それぞれが、相手グループを敵と考えて動く。制限時間は20分だ。そして、4人を捕まえた方が勝利。これは5人チームであったとしても、4人捕まったら負けだ。時間内に決着がつかない場合、残り人数で勝敗が決まる。
「双方の陣営には、『激カワ据置プリズン』を設置。相手を投獄した時点で捕まえた判定になる。あぁあと、標葉」
「は、はい」
「お前このルールじゃ有利すぎるからな、お前だけ別ルールにする」
「えぇ!?」
「恨むなら自分の個性の利便性を恨め」
 個性を使っての直接の投獄は禁止、確保テープを巻かれたら個性使用禁止。確かに縛りがないと、湊は触れただけで直接牢の中に飛ばせるし、湊を投獄するには意識を奪う以外ないことになるから、理解はできるのだけれども。
「く、くやしい……」
「何に悔しがってんだ。便利な個性でいいだろ。授業組む俺らが苦労するくらいだ」
 苦労をかけてすみません、と素直に謝ると「別に謝られることじゃない」とそっけなく言われた。

 そして、箱に詰められたくじを引いていく。皆、1から5の数字が書かれた球体を引いているのに、湊はなぜか星が書かれたものを引き当ててしまった。
「なにこれ……?」
「アタリなんじゃね? もう一本もらえる的な」
「もう一本……?」
「ネタ振る相手が悪いだろ」
 上鳴が不思議な事を言って、瀬呂が苦笑した。どうやら、有名な棒アイスで当たりが出るともう一本もらえるものがあるらしい。
「星の奴……標葉か。お前今日はツイてるな」
「本当に思ってますか?」
 先生曰く、星が端数の一人となるようだ。心操がくじを引いた後に、湊ももう一度、今度は2から4の数字しか入っていない箱からくじをひく。1と5に加わる心操とのバッティングを避けるための対策だという。外れじゃないですか、と小さく呟いたら、近くにいた上鳴が吹き出した。
 結局湊は3番チームに入ることに相成った。飯田、尾白、障子、轟と同じチームだ。よろしく、と言い合っていれば、相澤が「さてA組の5人組へのハンデだが」と話し始めた。
「星を引いたラッキーマンが、開始10分は行動禁止だ。星の奴は援軍として扱う」
「えっ!? それって、行動出来る時間にはもう終わっている可能性ありますよね……!」
「だったらそれまでだ。単位はやるから安心しろ」
 ひどい、と落ち込む湊を、障子と尾白が慰めてくれる。持つべきものは優しい友だと思った。
「まぁでも、このメンバーなら標葉さんの援軍はありがたいよ」
「そうだな。頼りにしている」
「ふたりとも……ありがとう」

 OZASHIKIと書かれた、高床になっている観戦席に皆が集まる。第1試合のメンバーは各々、試合会場である一角に向かった。湊は、耳郎と八百万とともに、端に座って大画面を見つめる。
 開始の合図は、スタート! というブラドキングの声だった。第1試合、対戦カードは、A組:蛙吹、上鳴、切島、口田。B組:塩崎、宍田、円場、鱗。また、心操がA組に加わる。
 まずは、口田の個性で索敵を行う。位置を把握した場所へと、ひとかたまりになって移動しよう……とした矢先。宍田が飛んできて、奇襲を仕掛けられ、切島と、保護色で壁に擬態していた蛙吹までもがふっ飛ばされた。
「い、たそう……そっか、匂いを頼りに索敵してるから、宍田くんには梅雨ちゃんの保護色も関係ないのか……」
「パワーすんご……梅雨ちゃん大丈夫かな」
 そして、宍田の背に乗っていた円場が、口田を個性でできた箱の中に閉じ込める。これで、口田の個性は無力化されてしまった。
 宍田が止めとばかりに、残った上鳴と心操に襲いかかろうとしたその時。心操が機転を効かせて、新しいサポートアイテムを使って円場の声を出し、宍田に洗脳をかけた。
「あれ、すごいね」
「えぇ、個性のデメリットをうまく補う、良いアイテムですわ」
 しかしその後、心操は円場の個性にかけられて、箱の中に閉じ込められてしまう。宍田は上鳴をぶん殴り、放電でしびれ一時行動不能に。その隙に、蛙吹が円場を舌で捉え、牢まで連行する。しかし、宍田はあの量の放電ではまだ動けたのか、蛙吹を追いかけていく。
 宍田の前に立ちふさがる切島と口田だったが、宍田はクレバーにも二人をやり過ごし、切島を塩崎のほうへぶん投げて、口田の口を押さえて無効化した。しかし口田も大暴れしたことで、宍田は口田を連れて一時退却する。

「早くも削り合い! 宍田・円場の荒らしが覿面! これは! 残人数は同じでも、精神的余裕はB組にありか!?」
 ブラドキングの偏向実況を聞きながら、これはクラスでの戦闘とは異なって、課題がずいぶんと浮き彫りになるな、と感心した。クラスで戦闘訓練をするとどうしても、手の内を知り尽くしているからある程度予想ができてしまうのだ。
「我が教え子の猛撃が遂に! A組を打ち砕くのか!?」
「いいぞボクらのブラキン先生!」
「偏向実況やめろー!」
 B組はどうやらとても仲良しなようだ。偏向実況に講義しに行った芦戸、耳郎、青山がプラカードを持ってデモのようにしている。楽しそう。

 両チーム、落ち着いて作戦を立て直すようだ。現在、捕獲した人数はA組1人vsB組2人。つまり、フィールドには3人ずつが残っている。
 A組が作戦を立て終わったようで、3人揃って走り出す。宍田を警戒してか、固まってではなく各々分かれてだ。宍田は案の定それに気がついて、ピクリと反応する。
「蛙吹氏が3人向かってきてる!」
「何言ってんだ宍田。エクトプラズム先生じゃあるまいし……蛙吹は一人だろ」
 なるほど、匂いをごまかせれば宍田の索敵はごまかせる。少し離れたところにいた緑谷と峰田が「毒性の粘液!」と話していたから、以前からある個性の活用なのだろう。さすが、機転が効く。

 結局、上鳴が囮として塩崎のツルに捕まり、その隙に蛙吹と心操が接近。塩崎に洗脳をかけることでリームの分断を誘い、B組を全員戦闘不能に追い込んでしまった。
「第1セット、ぐぬぬぬぬ、A組+心操チームの勝ーーー利!!」




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