(side:王耀)
「今日は貴方にお話があるのです。」
「欧州諸国が貴方に攻めこんできました。」
「これがどういうことか分かりますか?」
「貴方が敗けたと言うことは亜細亜全体の植民地化を表します。」
「いずれは私のところにも。」
「ですから私は―――。」
我の弱さが貴方をこの世界に引きずり出しました。
***
煙。
肺にためて。
「またそんなものを喫っているのですか…」
咎めるように。
大切なおとうと。
「加減は判ってるあるよ。」
知ってるか?
これは花からできているから。
「それに我の家じゃ芸術として高められているものある。」
すると弟は痛むような顔をした。
「わたし、それ嫌いなんです。」
くさくて。と眉間に皺を寄せた。
「いやなにおいがするでしょう?」
この匂い。
同時に感ぜられるのは薔薇と紅茶の。
「わたし、あの人のこと嫌いなんです。」
その表情。
彼には珍しく嫌悪感を顕した表情。
「それは我もある。」
「じゃあ何故、」
「もうこの話は終りある。」
お前がいると巧く旅立てないから。
「帰るよろし。」
いつからだっただろう。
阿片吸引独特の酩酊と幻覚。
海の底に沈んでしまう幻を見るようになってしまったのは。
***
沈む 沈む 水の底
「おい!聞いてんのか?」
「…ぁ?」
思い出す。
ここはいつもの。
「疲れてんじゃないの?
少し休んだら?」
よく言う。一因はお前にもあるのに。
「そうだねフランシス君。」
にこりとロシア。
「ばぁか。あんま甘やかすとつけあがんだろ。」
憎き敵。
そもそもの原因を作ったのは英国ではないか。
「―――――。」
「あ?」
しんじまえ。
どうやら聞き取れなかったようだ。
しんでしまえ。お前らなんか。
***
罌粟の毒は絶望的な痛みから
人類を救うためにうまれました。
いたいのです。あしたをかんがえるのは。
どうか どうか。ねているあいだに。
きえてしまえればいいものを。
「―――!兄貴、菊が来てるんだぜ!起きなきゃ兄貴のおっp」
「…起きてるあるよ」
よりによって。
寝起きにコイツの顔を見ることは億劫だ。
ただでさえ身体は億劫なのに。
「準備したら行くと伝えとくよろし。」
了承の意を伝えるとヨンスは出ていった。
菊を待たせているというのに寝台に横になる。
まずいと思う。
英国からもらった怪しげな煙草を喫ってからというもの、その危険性に気づいた現在でもここまで億劫にはならなかったのに。
「遅くなっちまってわりーあるな。」
「いえ…」
行くといつものように菊は待っていた。
「顔色がだいぶ優れないようですが?」
「こんなの漢方飲めばすぐあるよ。」
聡い彼のことだ。
ここで否定すると踏み込まれてしまう。
「………。」
「何あるか?」
眉根を寄せてこちらを見てくる。
「…いいえ。今日はお話があって来たのです。」
嫌だ。こう言って切り出すこの子の話は、いつも自分から離れてしまう内容だ。
自分の知らないどこか遠くへ。
「わたしは近々、ロシアさんと戦をするでしょう。」
一音一音確かめるかのように言葉を紡ぐ。
「いずれは貴方と敵同士になってしまうやもしれません」
「嫌ある。」
そんなのは嫌だ。
だってお前は弟じゃないか。
たいせつな たいせつな
わたしの おとうと。
「国として生きていればこのような事など数え切れない位あるでしょう」
それはわかる。
今までだって。
「私は亜細亜を欧州諸国から守りたいのです…っ!」
だからどうか、と頭を下げる。
でもそうやって頭を下げていたってこの子の心は決まっている。
「好きなようにするよろし。」
「…!」
「我は大丈夫あるよ。」
顔をあげた彼の瞳の奥に映った物から私は目を背けました。
恐ろしかったのです。
それが彼の皮を破って出てこようとする時が。
***
国という存在は狂ってしまうことは出来るのでしょうか。
彼が我のためにとすることの多くが
私の身体を殺していくのです。
「菊さんは私達の英雄ダヨ!」
湾が無邪気に笑う。
「ヨーロッパの人達たおせるなんてさすが菊さんダ。
老師の身体だってきっと菊さんが良くして返してくれるヨ!」
「…そうあるな。」
「だ、大丈夫ネ!老師は今身体弱ってるだけヨ!元気になればあんなヤツらすぐ国の中から追い出せるヨ!」
我と考えていることとは見当違いの慰めを言う湾。
「そう、あるな…」
私を侵していくのを感じます。
彼の瞳に映ったそれが
徐々に徐々に。
彼の皮を食い破り
彼まで侵してしまおうと。
後記
まだ続きます!多分後々加筆修正するとは思いますが
ここまで読んでくださりありがとうございます!頑張ります!