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それでは大丈夫な方は↓↓↓



















まるで不安が無いわけではありません。




きっとあの方は私の事など興味は無いのです。

だってあの方の瞳には彼女のお兄様の事ばかり。


ですがそれでも。


あの方の瞳に少しでも映りたかったのです。
















(side )







「夜分遅くすみません。ナターリヤさんはこちらにいらしてますか?」

扉を開けて出てきた方は彼女のお兄様。


私はこの方が苦手。

私にいつも醜い感情を抱かせてしまうから。


「ナターリヤのお友達かい?」

優しげに微笑まれてしまい居心地が悪い。

私はこの時彼が嫌いだと自覚してしまった。

「ナターリヤは出掛けたよ」

「こんな時間にですか?」


思わずついて出た言葉。

今ここにいる私が言えるはずもないのに。


「うん。大切な人に逢いに行くみたいだったよ」

目の前が暗くなった。

「でもどうして僕の家に来たの?ナターリヤに用があるなら直接ナターリヤの家に行けば良いじゃない」

確かに当前の疑問。

「ナターリヤさんはイヴァン様の事をお慕いしてますから。
それに例えいらしてなくても、ナターリヤさんの居場所をご存知だろうと思いまして」

「君は賢い子だね」

「…。」

「上がっていく?
外は冷えるでしょう?」

「いえ…」



彼女が彼女の想い人の所に行っているというのなら私はここにいて良い理由はない。



「帰ります。兄も待っていますし。
ありがとうございました」


「ひとつ、言っておくね」


「何でしょう?」

にっこりと微笑まれた。



「最近、ナターリヤが君の事ばかり話しているんだ。
…どういう意味かわかる?」



「…!
ありがとうございます!」


それならば尚更家に帰らなければ。


「ナターリヤの事、よろしくね」

「はい!」



急がなくては。






私のお姫様は本当は誰より泣き虫だから。




***





(side )




正直、あの子の扱いをどうして良いのかわからない。

私があの子に対して良くした訳ではないし。

ただいつも向けられる好意の念。

初めは気のせいだと思っていた。

私の都合の良い妄想。

だって私にそんな価値はない。

だからそれが気のせいでは無いことに気付いたとき、私は何故?という不可解さしか感じなかった。


何故? どうして私を?



いつしか思考は彼女の事ばかり。

兄さんと同じくらいの位置。

でも兄さんに対してとは違う好き。




本当は。

気づいていたのよ。

ただ兄さん以外に好きな人が居るって事を認めたくなかっただけで。






わたしは。

あの子に恋をしている。





***



「おかえり、リヒテン…」

驚いた。思ってもみなかった相手が立っていたから。

「私だ」


「どうしたんだ?こんな夜更けに」

「お前の妹に用事があってきた」

「リヒテンなら出掛けたが?」
つい先刻。

「そうか…」



まさか。

この子が?


「おい、」
「夜分遅くすまなかった。
それじゃあ帰る」

呼び止めようとしたのに
くるりときれいに踵をかえし、帰ってしまった。


待っていてもらおうかと思ったのに。






***




(side )



あれ以上あの場にいたら泣いてしまいそうだったのだ。


全て私の勘違い。

思い上がりも甚だしい。


あの子は想い人と今ごろ――。



馬鹿らしい。私一人が勝手に…

勝手に。



じわり…と涙が滲む。


泣いては駄目。

泣いたら涙が凍ってしまう。

泣いたらきっと泣き止めなくなる。


私の家の寒さは身を切る。

涙なんて流したら、そこから私は氷漬けになってしまうだろう。


誰も溶かしてくれない。

私自身に氷を溶かす温度はない。


きっとわたし、次こそしんでしまうわ。



「ふ…っ」

思わずしゃがみこむ。


駄目。立ち止まっては。
動けなくなってしまう。






「ナターリヤさん!!」


春の暖かさが私を包んだ。




***




(side )



「な、んだ」

ああやはり泣いてしまっている。


「愛してますナターリヤさん」
抱き締める。

どうかどうか。


私の気持ちが、この方に伝わりますように。







「…お前はわからない」

「え…?」

私の腕のなか。
涙声でナターリヤさんが呟いた。
「なんで私なんだ。
私はつまらない存在だ。お前なら――」



ああ。



ばかなひと。





私はあなたをこんなにも愛しているのに。




***



(side )



だってわからない。

私にはそんな言葉を言って貰える価値がない。


性格も悪い。

目つきも良くない。

愛想もなければ、何もない。


「初めてお会いした時、美しい方だと思いました。まるで童話の氷の女王みたいだと。
お話しするにつれて段々とあなたをわかってきて、可愛い人だと思いました。」


「お話しできないときはいつも目で追っていました。
お暇なときは毛先を指でくるくるする癖。
恥ずかしいとほんの微かに頬が染まる体質。」


「泣きそうになると唇を噛み締めて我慢するでしょう。
ほら。血が出ています」

す、と彼女のハンカチで優しく唇を撫でられた。

熱い。


「あなたの事を知るたび、あなたを愛しく感じました。
あなたの自分に自信の無いところがひどく愛しい。
強がっている姿を見ると、甘やかしてあげたくなりました。
まだありますよ」

「…もういい」


あまり言われなれてないから照れてしまう。

顔が熱い。


彼女に触れられたところ一つ一つが熱を持っている。



「愛しています。ナターリヤさん」


どうしてそんな幸せそうに。


「私の可愛い人」



「もう良いったら!」


ばっ、と腕を振りほどく。

顔が熱い。


「だってあなたは信じないでしょう?」

そして更に。

「あぁぁあ!!もういいから!!
わかってる!!」

「本当に?」



「…本当だ」






この数分間だけで飽和してしまう。

なんて贅沢なことだろう。


“愛しています”

その時の喜びをどう表現すれば良いのでしょうか。

私はどうやら赦されているようです。


すべてから。

あるいは貴方から。





神様、この出会いを心から感謝します。






***



(side )




「唇、大丈夫ですか?」

見れば血はもう止まっている。

「大丈夫だ。慣れている」

ぶっきらぼうに呟き、ごそごそとポーチから何か取り出すナターリヤさん。


もしかして。


「わぁ…」


差し出されたのは小さな箱。

私には想い描けないくらい素敵なラッピングの。


リボンや花を模したものには手の込んだ刺繍が施されている。

「素敵です…
これはナターリヤさんが?」


こくりと頷くナターリヤさんの指には絆創膏が。



どうしましょう。
どこまでもこの方が愛おしい。


「私もナターリヤさんに渡したいものがあるのです」


あなたによく似たフォンダン・ショコラ。


彼女のラッピング程素敵なものではなくて気後れしてしまうけれど。


「……っ」

あぁまた。


「唇は噛まないように」


そうやって涙を堪えて。


「泣いた傍から凍ってしまうんだ」



環境 性格


きっと貴女は他人に甘えられなかったのですね。


誰よりも自分に厳しい貴女だから。





「たくさん泣いてください。強がらないでください」


私が甘やかすの。



「私が凍らせませんから」


だってふたりなら。


「寒かったら抱き合いましょう」


ね?

こうして。



「――っ…!」


ボロボロと溢れる涙。

子供のように泣きじゃくるナターリヤさん。



「私のうちに来てください。
兄様に紹介してそれから…
まだ家にたくさんあるのです」

フォンダン・ショコラ




「温めて一緒に食べましょう?」













たららん たらん。













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