理想と現実は違うものだと思う。


中には理想と現実が同じっていう人もいるんでしょうけど。

でもそうする事は本当に難しくって。


だから人はその差に苦しんで、少しでもその隙間を埋めようとするのでしょうね。






***



私の理想はローデリヒさん。

上品で、顔も良くて、優しい。



でも私が実際に好きなのはギルベルト。

よりによってアイツ。

ローデリヒさんとは違って乱暴で下品。
優しいのは…認めるけど…。






でも私はもうアイツの横には立てない。




アイツとは対等にいたい。

でもそうするためには強くないといけない。

でも無理なの。
自分の性別が女だということを自覚してしまった今。

もう昔のようには振る舞えない。

“女”の私は、彼の横には立てない。


強くありたかった。


だって、きっと彼は女の私を守ろうとするだろう。


それは屈辱。






***



「…よし。」

最近膨らんできた胸を押し潰すために何重にも布を巻いた。


これで普通の服を着ても傍目から見たら女には見えない。


戦場で女だということはマイナスでしかないから。


女だというだけで舐められ下に見られる。

やはり体格と力が重要な場面は多い。

油断してもらえる事は良いことかもしれないけれど、そうされてしまうことは自分の自尊心が堪えられなかった。






「なぁギル、稽古しないか?」
横になっていたギルに木の棒を放る。

「この俺様に挑むとは良い度胸だな!!」

けせせせせ!!と笑い声を立てながら、木の棒を拾い起き上がった。


「どこからでも掛かってこいよ!」


言われたから遠慮なく斬りかかる。

「ッ…!
中々やるじゃねぇか…」

突く、振りかける。

洗練された動き。


しかしそれに比べ、ギルベルトの太刀筋は粗野なもの。

でも技術の差を力で埋めている。

「ッ!!」

受け止めた衝撃で手のひらが痺れる。


「どうした?掛かってこいよ!」

「言われなくても…」

力の入らない指に無理矢理力を込め握り直した。

「って、うぉ…」

間合いに入り込み襟を掴む。
横に振られた棒を自分の棒で弾く。
それから足を払うとギルベルトは容易く倒れた。


自分の棒を突き付ける。


「…参った」

その一言でギルベルトの上からどき、自分の棒を放る。


その一言で自分の中に達成感が生まれる。

日頃の鍛練が報われたと。


しかし。

「なんで女なのにそんなに強いんだよ…」

小さくぼやき起き上がろうとするギルベルトを。

「い…ッ!!」

そのまま押し倒した。


「女?俺がか?」

「いや…別に…」


目を泳がせたギルベルトの襟元を掴み持ち上げると、苦しそうに眉を寄せた。

暫くそのままにして見つめあったのち、私は襟を放した。

「がっ…」

後頭部をしたたかに打ち付けたギルベルトは非難するように私を見た。



「×××××××××。」

それは願い。
そうあってほしいという私の願望。



「…悪い」

謝られてしまった。

でも傷ついたのは確か。

「いいよ」

許す。謝られたから。


自分達はそういう仲。

それが合ってる。











でもいつからだっただろう。

ギルベルトに敵わなくなってしまったのは。





***



あれから何度か戦があって

私とギルベルトの体格差も明らかなものになっていった。







「今回も俺の勝ちだな」

「きゃ…」

「うわ…ッ!!」

派手にギルベルトを巻き込んで転んでしまった。


「いたた…」

馬乗りになっているギルベルトは驚愕した。



「…っ」


泣いている。

「おい、大丈夫か…?」




ああ。

もう疲れてしまった。


いくら剣の腕を磨いても
いくら胸を潰しても
いくらそれらしく振る舞っても


剣の技術は力で抑え込まれたわ
それでも胸は膨らんだわ


作り変えられた身体で一体何を振る舞えって言うの?


一番自分が嫌いな戦術まで使った。

それまで矜持としていた騎士道精神まで穢して。

なのに勝てなかった。


「…んで俺が…!!」

女なんだ?

「おい、」

心配したギルベルトが肩に手を置く。

自分よりも大きな手。

「泣くなよ…」

最悪だ。
なんか最近の俺は泣いてばかりだ。


「女になんて…っ」

なりたくなかった。


なったらこの関係は終わってしまう。


「…」


本当は理解できていた。

あまりにも速い身体の変化。

与えられた時間は充分すぎた。


日々膨らむ胸。
身体が描く曲線。
声。

貴方との体格の差。


個人差なんて言えないほどの身体の違い。



「女だからってお前は逃げるのかよ?」

絞り出された声。
それから――


「っ…!!」

頭を叩かれた。



「×××××××××!?」

それはいつかの――



くらくらする。

視界が。

貴方の声が。


心に響いて とける。

しみわたる。


ああ。


「俺らしくなかった。悪い。」
今度は私が謝る。

「ああ」

彼が笑う。



謝られたから許す。

それが私達の仲。


それが合ってる。








でも、それに恋愛感情は含まれていますか?








***




今の私に剣を持っていた手はない。

柔らかな手。

剣を捨てたばかりの頃、それは憧れだった。

ドレスを着ることへの違和感。
今はない。
流行を追い続けることにも慣れたわ。

言葉使い。
大丈夫。
今はもう。


あの人への恋心。

それは今でもこれからも。





「なぁそれ貰ってやっても良いぜ?」

「はぁ?何様のつもりよ?」

ローデリヒさんの家。
何故かアイツも来ていた。


「俺様だ」

うざい。


どうして私はコイツが好きなんだろう。


「どうせひとつも貰えてないんでしょ?」

「1個はもらえるんだよ!!」

「へぇ誰に?」

内心動揺している。
少し声が震えてしまった。


「…ヴェストに…」


それは彼の弟の名前。

「そう、じゃあ要らないわね」「下さい」


笑ってしまう。そんなに必死に
あ、でもきっと。

私じゃなくても良いのだ。




一気に落ち込む。
自分の想像に落ち込むほど馬鹿らしいものは無いけれど。


「おい、なんでいきなり落ち込んでんだよ?」

「別に」


「なぁったら」

「うるさいわねぇ、あげるわよ!!」


顔面に投げ付けてやった。


「ぶっ…」

衝撃で倒れ、ソファーに埋まるギルベルト。


やばい。やりすぎた。



怒鳴られるかと身構える。



しかし。



「ふへへ…ありがとな」

鼻血を垂らしているのに笑って。

拍子抜けしてしまった。


でも。

貴方がくれる言葉ひとつ、表情ひとつが嬉しい。

ときめく。


×××××××××。は叶わなかった。



隣に立てないことはわかっているわ。



でも。それでも。



「お返し。楽しみにしてるから」






どうしてもこの恋だけは大切にしていたいと思うのです。


恐らく一生。









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