「受け取ってくれるでしょうか…」


リヒテンはため息混じりに呟いた。





我輩は――
私は――







「リヒテンちゃんは何を作るの?」

お茶会のあと。
後片付けも終わり、残っているのは二人だけ。


「ええと、何かその人らしいものをと考えているのですが…」

「思い付かないの?」

「いえ、思い浮かんではいるのですが…受け取ってくれるか不安なのです」

「バッシュさんがリヒテンちゃんのプレゼントを受け取らないはずはないじゃない!」


「そうだと良いのですけど…」

リヒテンは困ったように笑った。




***








「眠れないのか?」

「あら兄様」

手を休めて少しリヒテンはバツが悪そうな顔をした。



深夜。


「明日はバレンタインデーですから」

どうせなら渡すことは秘密にしておきたかったのだけれど。

「そうか。」

「兄様はどうされたのですか」
「いや…」

見ると兄様の手には銃が。

私が起こしてしまったようだ。

「ごめんなさい兄様。起こしてしまって」

「いや気にするなリヒテン…!」
「でも…」

「物音がして、もしもリヒテンに何かあったらと起きてきただけなのである。
リヒテンが無事ならそれで良い」

兄様が頭を撫でてくれた。

「我輩はもう休むとする。
身体は冷やすなよ」

「おやすみなさい。兄様」


兄様が出ていった後のキッチンはひどく静かで冷たい。


「さぁ、頑張りましょう…!」

あの方のために。




あの方によく似たフォンダンショコラを。





***



「お茶にしましょう兄様。」

3時のお茶の時間。

昨晩作ったフォンダンショコラに手作りのベリーのジャムを添えたもの。


「美味いのである」

「それは良かったです…」

安心する。
良かった。誉めて貰えて。



「そんなリヒテンに我輩からもプレゼントがあるのだ」

照れ臭そうに花束を差し出しされた。

「まぁ…!
ありがとうございます兄様!」
青系の色の花と淡い鴇色の花の可愛らしいブーケ。

「綺麗です…」



まるで青色があの方のようで。



「ねぇ兄様」

「なんだリヒテン」


「もし私が女性を好きになってしまったとしても、変わらずお慕いしてくださいますか?」

吐息混じりの問い。


バッシュはリヒテンが淹れてくれた紅茶を吹き出してしまった。

「な…っ!?」

「やはり…お嫌ですか?」

寂しげに俯くリヒテンにバッシュは慌てて、しかし真摯に答えた。




「たとえリヒテンが誰を愛したとしても我輩たちの関係は変わらないのである。

我輩は、兄としてリヒテンを祝福する」


兄様の言葉でぐらりと世界が揺れる。


その言葉を言い終わるやいなやリヒテンの瞳から大粒の涙がこぼれた。

「なっ!!!?」

「ありがとうございます兄様…っ」

ぼろりと音がしそうな勢いで涙はあふれ続ける。




確かに私には聞こえたのです。
兄様の声がまるで神様のように。



「ああ兄様…」



だってあなたにまで否定されたら、私はこれからどうやって生きていけば良いのでしょうか!




***




「では行ってきます兄様」

「いってらっしゃいなのである」


あの方の元に。




***



行ってしまった。




彼女に気になる人ができていたことは気付いていたのだ。


だって自分が一番近くで彼女を見てきたから。

まさか同性を好きになって居たとは知らなかったけれど。


「妹の幸せを願わない兄がどこにいるのだ」


ただ自分のためだけに作られる事がなくなったお菓子を少し寂しく感じただけで。




私は――
我輩は――







ただあの子の幸せだけを祈ります。


今までも。そしてこれからも。





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