「あー…」

失敗してしまった。






***



思い返せば選択ミスだったのだ。

トリュフなんて。



私の体温は高い。
それは手も同じように。


触れば溶けるチョコレート。

刻めば不快にまな板に染み込んでしまう。

手のひらはべたべた。

包丁の持ち手にもそれは伝播している。




(こんなんじゃキクさんは貰ってくれないヨ…)


だってキクさんの家の物は全部綺麗で同じ形。

野菜もお菓子も。


「…っ」

涙があふれてしまいそう。


だってできてしまったものは形のいびつなもの。

ガナッシュとコーティング用のチョコレートが混ざりあってしまい口どけも悪い。





「どうしたの的な」
「香…」

後ろからひょこりと覗いてきた。

「あー…」
「!!!」

バツが悪そうに目をそらされた。

「なんだヨ!!ひどいならひどいって言ってヨ!!」

我慢していた涙腺が決壊する。


「見た目悪くてもチョコはチョコ的な」

「だめヨ!キクさんにはあげられないヨ!!」

手はチョコとココアパウターの層に包まれていて顔がぬぐえない。

泣いていると香に一つ食べられた。

「あ…」


「No problem.マジうまい」

「嘘ネ!そんn」
「老師は湾が作った物を貰えるだけで嬉しいだろうし、ヨンスはまず見た目気にしない。味覚も雑。俺も気にしない。

それにまさかキクさんが湾が頑張って作った物を捨ててしまうと思ってんの?」

そんな最低な奴だとにキクさんを思っているの?
と訊かれた。

そんなの。

「キクさんは、そんな奴じゃないネ…」

「Yes!だから無問題。的な」

私は馬鹿だな。
何を悩んでいたんだろう。

「それにどうしても気になるならもう一回溶かしてnutsをcoachingすれば良いっしょ?」

あ。

「その手があったヨ!!」

「でも別にこのままでも良いんじゃね?」

「それは来年にとっとくネ」

「そっか」

どうして香がそんな風に微笑うんだろう。

満足そうに。



「ありがとう香」

「どういたしまして的な」


香が笑うと私も嬉しい。


「来年は香のために作るネ!」
「期待しないで待ってる的な」
「あー!!酷いヨー!」


でも待ってくれるって言ったから。





来年もまた頑張るの。




***



そんな二人を扉の隙間から見る二人がいた。

「いやー可愛いあるなー!」

「本当に心が洗われますね」


少し不審だがやけにほこほこしている。


「しかし湾はやけに菊がすきあるな…」

「さぁ…どうでしょうか」


ふと横の兄である人を見ると、信じられないものを見る目でこちらを見ていた。

「非道いある!わっるい男あるなー!!」


「は!?」


「湾の気持ちを知っていながら弄ぶなんてまさに鬼畜の所業ある!!」

どこかで聞いたことのある台詞だ。

「違…て言うかまた家のパクりましたね耀さん!!貴方に甘く接していたらダメだということは既にわれているんですよ!!」

ふはははははと魔王の様な笑い方をしているが目が笑っていない。

しかし――




「二人共。」



振り返ればほら。


「何してるんスか」



「あー!!ダメだヨ!!キクさんには内緒にして言ったのに老師!!」


「ぇちょ、」

「いやこれには深い理由が」



「問答無用的な」





***





「キクさんは湾の事正直どう思ってるんスか」

それは湾が耀に制裁を加えている時のこと。

切り出したのは香だった。

「どう…とは?」

驚いたかの様に微かに目を開き、それから微笑んだ。

「本当はわかってるデショ?俺の質問」



「安心してください。
彼女の私に対する好意は、恋愛のそれとは異なりますよ」

憧れでしょうね、と微笑う。


「湾の事何とも思ってない的な?」

不服気に問う香。


「大切な妹だと思っていますよ。香君や耀さんヨンスさんと同じくらいに」

「…それってズルいッスよ」

「年寄りなんて狡猾なものです」

ふふふ、と微笑う。










「キクさん、香お茶するヨ!」
湾の声。

「えぇ。今行きます!
さ、香君も。」














「いつか絶対追い抜いてやる的な」

菊が立ち去ったあと香の呟きを聞いたものは居なかった。





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