赤色精神衰弱

※注意
この作品には流血、猟奇、鬱な描写があります。
大丈夫な方だけどうぞ。

















「なぁ」


「何ですか?」


本田の家。


「あれ、伐ったのか?」

それにしては断面が汚い。

さぞかし切れ味の悪い刃物で伐ったんだろう。


それか、途中から毟りとったような。


「?」


指で示す。

障子の向こう。


硝子戸も今は開け放たれており、仕切るものは何もない。


おおよそ外界といわれるもの。

内と外。



「ああ。竹、ですか。
ええ。先日。貴方今日食べたでしょう?
伐ったのではありません。掘りました」


ああ、やはり下手糞ですね、と大して残念そうでもなく溢した。

「アルフレッドさんが先日」

「ふぅん」


なんだか少し面白くない。


「じゃあなんではえてきてんだよ?掘られてんのに」

「根から掘られてなかったからです。
きっとアルフレッドさんは途中で折ってしまったんでしょうね」

ああ、さっきの発言はそういうことか。



「あれはいくら育っても、どんなに上に伸びてもあのままなんです。」




「黄色いやつは枯れてんのか?」

「はい。でも中にはしぶとく生き残っているものもありますよ、ほら」


本田が示した方向にはやはり上の方が切り取られた竹が生えている。

しかし色は今もみずみずしい緑。


違和感。
静謐。

いびつなかたち。












きっとあれはこの人に似ている。

「あなたに」

「え?」


「そっくりですね。」


笑っている。

奇妙な笑顔。




「それはこっちの台詞だ」



本田が笑う。

口がいやに赤い。



「…本田?」

「はい、何でしょう?」





ぞわり、鳥肌。








「お前…誰だよ?」


ずっと感じていた違和感。
普段の彼には無いそれ。


「ご存知ですか?かぐや姫には精神異常者という説があること」


「誰だって訊いてんだろ!?」


ぶわりと恐怖心が沸き立つ。

「見てください。今夜は満月ですね」


気持ちの悪い本田の笑顔。

真っ赤な月はまるで血のよう。


「それが何だってんだよ!!」


「…不吉でしょう?」



笑う。本田が。

堪えられない。恐ろしい。



恐怖。





「来んな!!」


壁に掛けられていた刀を構える。

鞘を片手に防御ができるように。


「私を殺すのですか?」

「本田はそんな気色悪く笑わねぇんだよ」



大丈夫だ。

こいつは本田じゃない。



だから。





だから?







俺は、






ずぐり、



本田が崩れ落ちた。


みるみるうちに本田から赤色がひろがっていく。


本田の体重を支えることができずに刀は軽い音をたてて折れた。




どさりとうつ伏せに倒れた衝撃で、本田の口から血泡が溢れる。


本田の瞳は既に光を失っており、死人の気配しかない。



静けさ。緊張感。



「夢だ…そうだよこれは」


その時。

微かにもバランスを保っていた空気が破裂した。



「…夢ですよ。これは」


むくりと本田が立ち上がった。



「っ!!!?」



沢山の戦場を越えてきたのに。
どうして俺は恐怖している?


血塗れの本田。

畳も障子も壁も。
そして俺も。


「でも、それは本当でしょうか?」


「黙れ」

「夢は夢のままですか?それが実現することは?正夢って言葉もありますねあは、アハアハアハアは、ははははははハハはははははははははははははははははははハハは」

哄笑。


「これはただの悪夢だ!!」


ぴたり。

本田が一気に無表情になる。


「あなたは私を殺した」


にやり。やけに赤い口の端しからごぼりと大量の血液が溢れる。


これ以上本田の声を聞きたくなくて声帯を潰そうと、俺が刃を突き立てたから。


にやり。

本田は笑顔のまま。

いや、陶酔したような。


声が出ないのに、何をいっているのかわかる。






“あなうらめしや”















「…っああ!!」


自分の悲鳴で目覚めた。


「どうしたのですか?」


針仕事をしていたらしい。

手元から顔をあげた本田が俺の額に手をあてる。


ひやり。心地いい。

「すごい汗です」


「あれ…何だっけ」


思い出せない。何かとても恐ろしい夢をみたような気がするのに。



ふと障子の向こう。


「なぁ」


「何ですか?」


指で示す。
切り取られた竹。


あれ、どこかで。



「どうしたのですか?」


にやり。嫌な笑顔。


いやに赤い本田の口。
赤い月。

竹。竹。竹。

首のない。

哄笑。

赤、赤、赤、赤、赤、



「おま、え…」

どうして忘れていたのだろう。

恐怖。恐怖。恐怖。


「本田はどこだよ…?」


にやり。


ああ、くちが。



「貴方に問います。
…これは夢でしょうか?」



「やめろ!!」


「刺したら答えがわかるかもしれませんよ?先程のように」

「黙れ!!」


ずぐり、
俺は再び本田を刺した。



終わる。今度こそ。



にこり、と今度はいつもみたいに微笑んだ。

ああ。やっと。



「正解です」













目を開ける。











「なんでだ!!!!!?」


血塗れの本田。

畳も障子も壁も。
そして俺も。



赤、赤、赤、赤、赤、


月は赤い。


本田はぴくりとも動かない。



動かない。



ただ死んだ肌色で、死んだ瞳で。



「なぁこれも夢なんだろ!?」

でなければ頭がおかしくなりそうだ。


「……。」


本田は何も喋らない。



月は赤。


あかいほんだ。




「…もう…いやだ…」




にやり。

「ッッ!!!?」


むくり、と本田が起き上がる。
何か見えない紐で吊られているかのように。

通常、先に動くべきでないところから。




「良かったですねぇ、ギルベルト君。
最初から全て現実なんですよ」

「いやだ…」


「貴方が私を殺した」


「やめろ…」


「どこからが夢でどこからが現実だなんて無粋な問い掛けはやめにしましょう。
あなたが私を殺した事実がある。
ただそれだけです」


にこり、作った笑顔。
機械的な表情。



「もう俺を殺せよ…」



「無理ですよ。私はあなたが作り出した幻だもの
ほら、折れた刀も持てない」

微かに憐れみの表情。


「じゃあ間接的には殺せるんだな?」


俺は本田の血糊にまみれた刀を自分の喉に突き刺した。


「……。」


本田は何も言わない。
無感情に俺を見つめている。




「つまり、こ、れがそういうこ とだ  ろ ?」








視界が煙る。


息をするたびに、空気の一部が傷口から漏れていく。









「いいえ。勝手に死ぬのはいつもそちらです
…サヨウナラ。」





もうわからない。



わからない。




















「あれ?」

なんだか夢を見ていたような気がする。


本田の家。





「なぁ」


















  
 










その度毎に君を殺します。


これは夢?

それも夢?



これが夢でなければどうしましょう





どこからが、ほんとう、だったでしょう か ?













後記
しばらく前にかいたものを手直し。


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