いっそ高飛車なキス

注意
この作品には猟奇的表現、性描写が含まれます。
苦手な方は逃げてくださいね。














手の上ならば 尊敬のキス
額の上ならば 友情のキス
頬の上ならば 厚意のキス
唇の上ならば 愛情のキス
瞼の上ならば 憧憬のキス
掌の上ならば 懇願のキス
腕の首ならば 欲望のキス







さてその他は 狂気の沙汰













『そういえば、お兄さんがマゾヒストって知ってた?』

『そうですか。私はサディストでした』

『過去形なの?』

『えぇ』



『何かを崇拝できたら安心できるのにね?


『居ないのですか?そういう方』

『居ないよ。だって崇拝って幻滅したらおしまいだろ?』

『まぁそうでしょうね』

『何かに縛られていないと不安なんだ。
それは縄であったり、人からの征服であったり』

『ご自分で縛ればいいのに』

『ご主人様が欲しいんだよ俺は』

『なってあげましょうか?』

『大変だと思うよ?崇拝されること』

『でしょうね。でも』

『うん?』

『私、そういうことには慣れていますから』

『流石だね?』


『だから、今更一人ぐらい増えたって変わりませんよ』



***



乗馬用の鞭で四つん這いの彼をいたぶる。

何の感情も抱かず、ただ淡々と。


私達は愛し合っていない。

愛を伴わないサドマド遊びをナンセンスだと笑う方もいるかもしれないけれど。


この出来合いのお遊びを喜ぶ人も居るんだから仕方無い。



たとえば目の前の彼。



自分を縛って欲しいと乞うた彼の背中には、尻にはいく筋ものみみず腫ができている。

(長年の勘って奴ですかねぇ…)

かつて私はサディストだった。
でもマゾヒストだったこともある。

だから、わかる。


この鞭に、どう力を込めれば、どこにぶつければ、相手にどれ程の痛みが加わるか手にとるように。


ぱしん。

「ッ!!?」

戯れに睾丸に当てた。

さぞかし痛かったようで、彼は口のはしから泡を噴いてしまっている。

「痛いですか?」

当たり前だ。

わかってて聞く。

「鞭は良いですよね。
吊しだと加減が難しいですし。縛ると手のひらが痛くなりますし」

それはただの世間話。

だから私は気安く話す。

そうすれば犬は焦れ、羞恥心に煽られるだろう。


「そ、れは残念…」


「ルートさんと先日語り合いましてね。
鞭も様々な種類がありますし、縛るのは縄だけではありませんし。
個人的には革の光沢もすきなのですけれど」

ぱしっ。

「っあ!」

「して欲しいですか?」

ぱしん。

今度は尻を。

「っは、ぁ…」

びくり、と彼が震える。
先程の一発はさぞかし効いたようだ。

「して欲しい、ですか?」

ぱしん、ぱしん。

鞭を身体に当てるたびに喘ぎ、ひくつく彼。

「あえいでいるだけでは分かりませんよ。
もうやめましょうか?」

「やだ菊やめないで…」

必死の形相。

いじらしいではありませんか。
「何を、ですか?先程から貴方、喘いでばかりではありませんか。
何をして欲しいのですか?その口で言ってみなさい」



「吊ってよ、きく…」

「身体に負担がかかると思いますよ?
…それでも?」


平均的な大人なら数分で身体に支障をきたす。


麻痺を残したり、関節にダメージを与えてしまうから。


「怖じ気づいてるの?
…虐めてくれるっていうのは口先だけ…?」


悪戯気に笑う彼に嗜虐心を煽られる。


そうですか。
貴方はまだそんな表情ができるほど余裕があるのですね。


それなら私は、



「きく…?」

「犬の分際で生意気ですね」


貴方が泣いて喚くまで。


その可愛らしいお顔が鼻水と涎にまみれるまで。




わたしは。











彼の首が、わたしの言葉でひくり、とひきつったのを見逃さなかった。
















淡々と縄を彼の身体に這わせていく。

「ありがとう、菊。愛してる」
「私は貴方からの愛なんて期待していません。
耳障りだと何度言えばわかるのですか?」

彼の全身に縄でおかしな模様を描く。


ねぇ、知っていますか?
縛りは私の十八番だということ。

「うん、知ってる」

一瞬心の声を聞かれたのかと驚く。
だけれどそれは先程の問い掛けに対してだと気づいた。


「それなら貴方は馬以下の知能なんですね。
…そろそろ動いても良いですよ」


縄蜷局後手縛り。

更に全身に負担を分散させるように縄を這わせ、縛り、それは完成した。


「なんとか見れるものになりましたね」

「でしょう?普段からお兄さんは美しいけど縄が更に、っあぁ!!」

五月蝿かったから鞭で黙らせた。

「馬鹿仰い。
貴方ではありません。この不細工」

世界中探しても、この人に不細工なんて言うのは私ぐらいではないのだろうか。



「ひ、ぁ、ごめんなさい…っ」
「ごめんなさい?“申し訳ございません”でしょう?
私を誰だと思っているのですか?
お前のご主人様に対して何ですかその口の聞き方は」


爪先で無理矢理顎をあげさせる。

彼の表情が苦痛に歪むのを無感情に眺めた。


「ぅぐ…申し訳ございません!!申し訳ございませんでした!!」


SMは役柄とストーリー展開を厳密に綿密に定められたお遊びだと、ふと思った。


だって、ねぇ?

裸の男が鞭でばしばし叩かれているなんてお笑いでしょう?

そんな失笑ものの茶番劇を、それらしく振る舞わなければならないなんて!


「そうですね。良くできました」

微笑むと嬉しそうに目を輝かせた。

可愛らしいことですね。


「ご褒美をあげましょう」










「い、ぎっあぁぁぁぁあ¨あ¨あ¨あ¨¨あ¨!!!!」






きりきりとフックに固定して引き上げると彼は目を剥いて叫んだ。

いくら負担が分散できているとはいってもきついらしい。



よく知っていますその感覚。





じゃぱじゃぱと音がする。


彼は失禁してしまっていた。



「あはっ、お漏らしですか!
まるでけだものですね!」



私の言葉で彼の白い肌は赤く染まった。

「なんて締まりのない!
そうだ!そこも縛って差し上げましょうか?」

そこだけ可愛らしいリボンなんてきっと滑稽だ。





彼の顔はいまや涙と涎、鼻水にまみれ、それを求めていた私の心は幾分満たされた。



「ががががががが!!ぁああ!!」



そろそろ頃合いだろう。


フックに固定した縄を少しずつ緩めていく。



「…う!」


折角ゆっくり下ろしてあげたのに崩れ落ちてしまった。


「どうですか?お加減は?」


「……」


うつ伏せのまま彼はなにも言わない。

肩は上下しているから生きてはいるようだ。



私達があれくらいで死んでたまるか。


容赦なく蹴りあげて仰向けにさせる。


「ぅ…ぐ」


苦しそうだ。

見下ろしてみてもやはり醜い。
愛しい。



「愛して差し上げますよ。そのお顔なら」




最後に唾を吐きかけたら彼は射精をした。



内心驚く。



それと同時に愛しさが込み上げてきた。




ありがとうございますフランシスさん。

私はこれでも精一杯あなたを愛しているつもりです。















「お兄さんが居るのに…他の男の話をしないでよ…」

事後。


彼の言葉に思わず鼻白んでしまう。

「犬が恋人気取りですか…お笑いですね」


なんて胸くそ悪い言葉。



「貴方とルートさんを一緒にしないでいただけますか?
彼は友人です」


ああ気持ち悪い。

彼らを汚さないでくれ。



気分が悪い。

不愉快だ。



だから少しだけ相手の求めるシナリオを崩してあげた。


「愛してる、とでも言って欲しいのですか?」

「まさか!!畏れ多い!」


その思い付きは失敗に終わった。

益々不愉快だ。



「知っていますか?こうやって痛みを加えたり、相手を罵ったりすることだけがSMではないのですよ?」

「…わかってるさ」


「でしょうね」

尊敬語を使うから、相手を尊敬しているという意思表示なわけではないように。


苦痛を与え、与えられるのがSMではないように。



両者はよく誤解される。

いずれもその方が手軽であるから。





「愛しているよ、菊――」

「私は愛していませんよ」


ひとつ、彼の唇にキスをする。

「愛していませんよ」


確かめるように。

自分に言い聞かせるように。




私達は、愛し合ってなんか、いない。


それをしてしまえばきっと彼は私から離れてしまうだろう。







無関心でいること。




それが私の愛し方なのです。
















後記
終わった!お久しぶりです!
良かったおわってー


唾を吐きかけられて射精する兄ちゃんと、情緒不安定な爺様の話です。


もうダメかと思いました!

待っていてくださった方はありがとうございます!

読んでくださった方もありがとうございます!


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