「おっはよー真ちゃん」

「む…」

「もう朝ごはんできてるぜ」

膨らんだ布団を軽く揺さぶる。声をかけてやると、弱々しい曇った声が聞こえてきた。
本日のお目覚めはあまりよろしくないようだ。緑の前髪を片手で掻き分け顔を伺ってみたところ、長い睫毛に縁取られた瞼はまだ開く素振りを見せない。

「ごはん冷めちゃうよー」

「むう…」

だめだ。こうなった真ちゃんが一筋縄では起きてくれないことは、嫌というほど経験済みだ。
普段の生活リズムが恐ろしく整っているからか、一度それを崩されるとなかなか立ち直らない。まあ今回の原因は完璧に俺なので、あまり文句は言えないのだけれど。

「ほら、いいかげん出てこいって」

「……まだ眠いのだよ」

さて、どうしたもんかね。俺としては、この後の予定も考えると早いとこ起きていただきたい。
しかしいくら布団を揺すったところで、真ちゃんはもぞもぞ動くだけで一向に観念する気配がないのだ。

「おーい真ちゃん、みどりまー朝だぞー」

返事がない。意外と柔らかい白い頬をふにふにとつついたら手で器用に払われた。なんでそこだけ俊敏なのさ。いったいどうしたらこいつは起きるのか。
ああそうだ、あれならいけるかも。頭のなかに湧いた考えに、我ながら名案だとにやりと口元を歪ませる。普段ならぶん殴られるかもしれないが、今日に関しては免罪符があるのだから。

「寝起きの悪い子にはお仕置な!」

「んむっ…!?」

「へへっ、王子様の目覚めのキス、なーんてな」

半開きになった薄く柔らかい唇を己のそれで塞ぐ。啄むようにしたあとに軽く舌で歯列をなぞり、けれどそれ以上深入りすることはなく顔を離した。
真ちゃんからおやすみのキスを貰えたのだから、仕返しだ。案の定真ちゃんの両目はばっちり開かれている。お目覚め効果は抜群だ。

「って、のわっ!?」

「き、貴様、朝から何をしているのだよ!」

ばふん。顔面に鈍い衝撃を受ける。堅くなかったから痛くはないけれど。飛んできたそれを掴むと、つい今まで真ちゃんの頭に潰されていたせいで歪なかたちをした枕だということがわかる。

「ちょ、暴力反対!」

「うるさい!朝っぱらから盛るな馬鹿め!」

「真ちゃんだっておやすみのちゅーしてくれたじゃん!」

「舌まで入れてはいないのだよ!」

ほんのりと頬を赤く染めた真ちゃんが、大声を発したせいか荒くなった呼吸をぜいぜい言わせながらじとりとこちらを睨んでくる。
やべ、さすがにちょっと調子に乗りすぎたかね。取り合えず、投げるつもりならその手に握った目覚ましだけは勘弁してよ。さすがに死ぬから。真ちゃんの投射威力は、一向に衰えを見せないのだ。


 


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