あたたかいところにいた。
校舎裏を歩いていくと、やがてコスモスがひっそりと植えられた花壇にたどり着く。春の日差しは心地よくて、けれども辺りにはだれもいない。
ああ、これは夢だ。なんとなくだが自覚する。校舎を見上げると、窓に黒い人影が見えた。

『しんちゃん』

真っ黒な髪に真っ黒な学生服を着たそいつはゆっくりと、その口をとても馴染んだかたちに動かす。そして軽く手招きした。
その瞬間、辺りの景色がざっと反転して、やわらかな日差しの庭はいつしか夕暮れ時の教室に変わっていた。
目の前には高尾が薄く笑いながら立っている。どうやらこの光景は俺の記憶らしい。教室を見渡すと、また随分と懐かしい高校時代の風景だ。黒板の右下に書かれた自分の名前。
そうか、あの日か。日直で日誌をつけていた俺を、あいつはなんでもないように待っていて。前の机から覗きこむようにちょっかいをかけてきたりもした。そしてやはりなんでもないように、俺の手にその手を重ね静かに薄い唇を開く。

『すきだよ』

にやり、と形容するのがふさわしいような笑顔が視界に飛び込んできた。額と額が音もなくぶつかる。ああ、あの日のままだ。
後で聞いた話だが、高尾はこのとき冗談にするつもりだったらしい。俺が気持ち悪いと言っていたらの話だが。
けれどそうはしなかった。小さくそうか、と呟いて、また日誌に視線を落とす。あの時はこの時点でお互いに混乱して赤くなっていたが、今となっては目の前で慌て出す高尾がなんだかおかしかった。
目を覚ましてもきっとこいつはこの頃と同じように隣で笑っているのだろうな。結局俺は、夢の中ですらこいつと一緒にいるらしい。


 


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