深夜二時ともなると、さすがに眠い。普段の俺なら間違いなくいびきをかいて夢の中だ。
それでも寝ないのは明日というか今日が休日だという他に、俺の義務を全う中だからである。
「……高尾、そろそろ暑いのだよ」
「ならエアコンつける?」
「そういうことではないのだよ」
真夜中とはいえ仮にも夏なのだから暑いのは当然だ。電気代がもったいないから、と扇風機ひとつで夜を明かしていればなおさら。
もっとも、真ちゃんが暑いっていうのは、完全に俺のせいなんだけど。
「いいかげん、はなれるのだよ!」
「えー、俺からの誕生日プレゼントなのに」
「どこがだ」
「プレゼントは俺、みたいなさあ。真ちゃんは俺にくっつかれても嬉しくないの?」
せっかくの誕生日なんだから真ちゃんに喜んで貰おうと思ったのに。俺がプレゼントなんてプレミアつくよ?なのに真ちゃんってば贅沢者!
和成泣いちゃう!とわざとらしく嘆いて、真ちゃんの肩に回した腕に力をこめる。そのまま抱き寄せるように胸を押し付ければ、無言で頭を叩かれた。真ちゃんは意外とすぐに(当然手加減はするけれど)手を出す、というのは一緒に暮らしていて改めて実感したことだ。
「いでっ、ちょ、冗談だから怒んなって。ちゃんと今日飯奢るから!」
「……デザートもつけろ」
「はいはい、仰せのまま。調子のってすみませんでしたって」
大人しく身を引いて、代わりに緑の髪を指で軽くすいてやる。こいつはこうされるのが好きなようで、しばらくそうしていると気持ち良さそうに目を細めた。猫が苦手だと豪語しているくせに、少し猫に似ている気がする。かわいい。言ったら怒られるだろうけど。
「俺はもう寝るぞ」
「えー、どうせ今日休みだし、もうちょっと喋ってようよ」
「もう二時なのだよ」
「んー、じゃ、俺とお喋りしてんのと俺に襲われるのどっちがいい?」
「なぜそうなるのだよ!?」
なぜって、ねえ。こうしておんなじ布団でぴったりくっついてたら、少しはそういう気分になるってもんでしょう。
「……今日は出掛けるのだろう。少し話したら、大人しく寝るのだよ」
迫っていた額を広い掌ぐいっとで押し返された。てか今のデレだよな。俺とのデートを楽しみにしているのだよってことだろ?
「やばい、真ちゃんが可愛すぎてどっちにしろ襲っちゃいそうなんだけど」
「寝言は寝て言え」
「まじだって」
「余計にふざけるな」
「あれ?もうツン全開?」
肩口に擦り寄ろうと試みたものの、寝返りをうって回避された。つれないの。
でもまあ仕方ない、我慢だ我慢。俺だってデート楽しみなんだし、真ちゃんに無理させるわけにはいかないか。
だから今は、左手をこいつのそれにこっそりと絡めるだけにしておこう。
「高尾」
「んー、なに?」
「眠れないなら、一つ話をしてやろう」
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