「残念、今年は雨かあ」
高尾が空を見上げぽつりと呟いた。部活を終え玄関を出て間もなく、出迎えたのは叩きつける雨の音。
「雨でもお願いって叶うのかな」
「さあな」
「真ちゃんは何か短冊に書いたりしたの?俺は家に飾ってあんだけど」
鞄から折り畳み傘を取り出して、空へ向けて静かに開いた。今日はリヤカーはなしだ。わざわざ濡れ鼠になりに行くほど馬鹿ではない。
「ああ。先週商店街でもらったときに」
あと一週間だから、と商店街の本屋で会計のときに小さな四角い紙を渡された。言うまでもなく七夕の短冊。少しだけ迷って、結局店先で書いてそのまま吊るしてきたそれは。
「何書いたの?」
「さあ、忘れたのだよ」
「えー、嘘だろ」
「それよりお前は何を書いたんだ」
「はぐらかすなよ」
ふ、と高尾には見えないように薄く笑う。俺の願いは教えてやらない。
安心しろ、どんな雨でも雲の向こうは晴れているから。きっと俺の願いもお前の願いも届いている。
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