※いかがわしいというか少しシモい





髪を拭きながらテレビをつけると、丁度バラエティ番組が始まったところだった。世界のあちこちを旅するやつ。一人のお笑い芸人のコメントに画面のなかがどっと笑いにつつまれる。久しぶりに見たけれど案外面白いかもしれない。なあ、と後ろを振り返り同意を求めると、どういうわけか不機嫌な真ちゃんがじとりとこちらを見つめていた。

「あれー……どうしたんですか緑間サン」

「自分の胸に聞いてみろ」

「えっなんのこと?和成わかんなーい」

ドスの効いた掠れ声が迫力満点で怖いです。てへっ、とあざとさを意識して首をかしげてみたものの、真ちゃんの眉間の皺は増すばかり。あげくのはてに小さく舌打ちまでされた。

「いくら約束だったといえ、風呂場でやるとは何事だ」

「はい」

「おまけに何回やるつもりだ。しつこい」

「んー……四回?」

「しかもゴムをつけないとはどういった了見なのだよ!」

「……返す言葉もございません」

あまりの迫力にうっかり正座で背筋を伸ばしてしまう。いやあ、さすがにまずかったか。そのね、久しぶりの真ちゃんがあまりに可愛いもんだったからね、調子にのってあれそれしてしまったといいますか。

「でっ、でも真ちゃんだって気持ちよさそうに鳴いて」

「言わせねえのだよ」

がしり。真ちゃんの大きな掌が俺の頭を鷲掴む。まずいぞこれは、顔を赤らめてはいるがけっこうなお怒りモードだ。

「明日は平日だということを忘れたのか……?」

「忘れてません。まじすいませんなんなら明日は車でお送りします」

誠心誠意心を込めて土下座する。今日の真ちゃんデレ多いし大丈夫だろとか甘い予測をしていた数十分前の自分、表へ出ろ。かわいい真ちゃんを散々拝めて大満足ではあるけれど、まさかこの瞬間に命を落としたくはない。真ちゃん、視線で人殺せるよ。美人が怒ると怖いっていうけど完全にそれだわ。

「……ふん。体調を崩したらお前のせいなのだよ」

真ちゃんはもう一度じろりと俺を睨むと、ふらつく足取りでソファへと歩いていった。どうやら俺の必死の土下座は通じてくれたようだ。助かった。

「だからごめんって真ちゃん!」

俺も立ち上がって慌ててその背中を追う。バラエティの笑い声が煩くて、テレビの電源を切った。 次はちゃんとベッドでやろう、そう決めた夏の夜。


 


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