一通り歌いたいものも歌い終わって、最後になにか二人で歌って帰ろうという話になった。電車の時刻的にも丁度いい。あとは何を歌うかなのだが。

「……高尾」

「んー?なあに真ちゃん」

さてここで問題です。この部屋はエアコンがガンガンに聞いていますが俺はいまとてもぬくぬくしています。なぜでしょう?

「……なぜこんなにくっついているのだよ」

「なんとなく?」

「馬鹿にしているのか」

正解は真ちゃんにぴったりくっついているからでした。正解者には豪華商品をプレゼント、なんてな。
馬鹿になんてしてねえよ、心外な。ただこの部屋エアコン効きすぎじゃねって思ったら近くにあったかそうなものがあったっていう不可抗力だし。別にやましい気持ちなんてないし。

「だって密室ですぜ真ちゃん。丁度おやつの時間だし、目の前に美味しそうな真ちゃんが転がってたら、ねえ?」

嘘ですごめんなさい、すごくありました。本音を口にしたところ、ものすごく嫌な顔をした真ちゃんに驚きの早さで身を引かれた。我ながらおやじくさかったとは思うけれど。
いやあ、前々から思ってたんだよね。こういった個室っていちゃつくのに最適じゃん。それに真ちゃん今日はデレ気味だったし。電車はまあ、一本遅らせたって平気なわけだ。

「なにをいきなり盛っているのだよ!」

「ここに来たときから薄々思ってました。でも真ちゃん、好きなやつと密室で二人きりになった男なんてこういうものです」

「俺も男なのだよ……!というかここは公共の場だろう」

「まあね」

ま、さすがにまずいってことはわかってるけど。真ちゃんとそうこうしたいってのは偽りのない本心だし。なんて、言ったらまた引かれること百パーセントだ。

「高尾」

「ん?」

「そういうのは、家に帰ってからだ」

へ?すっとんきょうな声が情けなく口端から漏れる。
ちょっとどういうことなの真ちゃん、と慌てて問いただすも、真ちゃんはふいとそっぽを向きリモコンを押した。途端に部屋にけたたましい音楽が響き渡る。
イントロが始まり、手元にマイクを投げられた。深緑の瞳が歌えと言わんばかりに睨み付けてくる。
あーはいはい、歌いますよ歌えばいいんでしょう!なかば投げやりにマイクを掴む。てか真ちゃん、今日はデレが多くない!?
こんなんだとお望み通り、家に帰って頑張っちゃうんだけど。覚悟しとけよ真ちゃん!


 


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