デパートに辿り着くと、丁度開店したばかりのところだったらしい。お辞儀をしてくる店員をよそに真っ直ぐフロアの真ん中のエスカレーターへ向かう。
電車を降りると同時に子供からも解放され(母親は申し訳なさそうに頭を下げていた)、笑い続け過呼吸を起こした高尾を引きずりながらここまで来た。やはり子供はあまり得意ではない。明日からおれもお汁粉飲む、と宣言された時は少しだけ頬が弛んだが。
高尾はというとようやく落ち着きを取り戻したのか、俺が見かねて自販機で買ってやったミネラルウォーターをぐいぐい煽っている。笑い過ぎて喉がいたいなど、馬鹿らしいにも程があるのだよ。

「ふう……真ちゃんはまずどこ見んの?」

「夏服を買うつもりだ。お前はどこがいいのだよ」

「俺はとりあえずCDかなあ。じゃ、最初に服見っか」

「わかった」

このデパートは相当大きくて、三階と四階の大部分が被服売り場だ。エスカレーターを降りるとすぐに男物の涼しげなシャツを纏ったマネキンが出迎える。
ああ、あれはなかなかいいかもしれない。向かって右手側、大きいサイズのメンズコーナーだ。この身長ではあまり普通の服が入らないので、どうしても丈が長い必要があった。特にズボンは。
以前このことを黒子に話したら無言で睨まれたことがあるが、あれは一体どういう意味だったのだろう。あいつ程度の平均的な体型だったら苦労しないだろうに。

「真ちゃん、あれとかいいんじゃね?」

店に入ると、高尾が手近にあったマネキンを指差す。スリムタイプのジーンズで、確かにシンプルかつ悪くないデザインだ。
けれどひとつ、ここでもその問題は付きまとう。

「悪くはない。だが、短すぎるのだよ」

「うわあ……」

素直に思ったままを口にすると、高尾が眉を寄せじとりとこちらを睨んできた。あの時の黒子と同じ顔だ。

「ズボンが短いんじゃねえよ。真ちゃんの足が長すぎるんだってば!」

顔もよくて長身足長とか不公平だろ、などと高尾がぶつくさぼやきだした。お前も顔はいい方だと思うし、足も身長の割には十分長いと思うのだが。そもそも、高校時代にお前はしょっちゅう女子に呼び出しをくらっていただろう。
そう告げると、高尾はさらに微妙な顔をした。そしてそのままずんずんと俺の腕を掴み店の奥に進んでいく。

「なんなのだよ」

「こーなったらぜってー真ちゃんに合うズボン見つけてやる!」

おい、どういうことだ。しかし覚悟しろ緑間あ!と息巻く高尾に気圧され何も言い返すことが出来なかった。俺は何かまずいことを言ったのだろうか。
ところで高尾、俺が買いに来たのはあくまで上着なのだが。パンツコーナーを片っ端から眺めていく高尾に控えめに声をかけてみたものの、どうやら耳には入らなかったらしい。


 


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