「ねえお兄ちゃん、なに食べたらそんなにおっきくなるの?」
がたごと揺れる電車に二人並んで座っていると、すぐ隣から甲高い声が聞こえてきた。声のした方を向くと、幼稚園児だろう可愛らしい男の子二人が真ちゃんをきらきらとした目で見上げていた。
「……俺か?」
「うん!でっかくていいなあ」
「おれもお兄ちゃんみたいになりたい!」
あらあら、モテモテですね真ちゃん。間に挟まれた俺などお構いなしに、二人は真ちゃんに近づこうと身を乗り出す。
突然の尊敬に冷静な仮面を剥がされかけた真ちゃんは、少し慌てた様子で二人の奥に座る母親らしき人物に視線を投げた。彼女もすみませんと苦笑いしながら子供たちの服の裾を引っ張ったものの、彼らは一向に身を引く気配がない。それどころか小さな口からどんどん質問を繰り出してくる。内容もだんだんエスカレートしているし。
「お兄ちゃんどうして髪が緑色なの?」
「野菜ばっかり食べてるんでしょ!」
……まずい。それそろ俺が吹き出しそうだ。お母さん(仮)も肩をぴくぴく震わせている。
どうするよ真ちゃん、子供は苦手なんだっけ。隣ににやにやしながら振ると、困惑しながらもむっとした様子でこれくらい平気なのだよと口を開いた。
「おいお前たち」
「しゃべったー!」
「緑のお兄ちゃんがしゃべったー!」
子供たちは大袈裟なまでに驚いてみせる。とうとう俺の腹筋が耐えきれず思いきり吹き出すと、脇腹をわりと本気で小突かれた。いてえ。真ちゃん、今日ちょっと暴力的じゃね?
「大きくなるには何を食べるのか、だったな」
「うん!」
「お兄ちゃんは何が好きなの?」
「ふん。簡単だ、大きくなるにはお汁粉を飲めばいいのだよ。俺がお前たちの年の頃は毎日飲んでいた」
「ぶっふぉ!」
もうだめだ。二重の意味で腹がいたい。
こんなとこで子供に布教かよ!まったく、本当に予想の斜め上を行く奴だ。
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