朝食を済ませ、まだ痛むのかしきりに頭を擦る高尾を横目に外へ出る。目覚まし時計はなかなかに威力があったらしいが、自業自得だろう。
玄関を開けた途端に飛び込んできた朝陽が眩しい。早朝とはいえ陽射しは紛れもなく夏のそれで、レンズに反射する光に目を細めた。

「さてと、んじゃ行きますか」

「ああ」

部屋の鍵を閉め終えた高尾が隣に並ぶ。いつもの明るい口ぶりで、にいっとした顔で俺の方を見上げて歩きだした。
目指すは徒歩十五分程の最寄り駅。暑くなる前に目当ての場所へたどり着けるように、と早めの出発を提案され、それもそうだと頷いて今に至る。

「真ちゃんとデートすんの久しぶりだな」

「最近はお互いに忙しかったからな」

「そーそー!バイト入れすぎたかも」

「そういうことは計画的にするのだよ」

「やってますー!ただ俺があちこちでモテモテだっただけですうー」

「はっ」

「ちょっ鼻で笑うことなくない!?」

真ちゃんひどーいなどと言いながら、高尾はぐだっともたれ掛かってくる。無言のまま肘で押し返すと、ぐえっと呻き離れていった。暑苦しいのだよ、高尾。

「ふざけていては電車に遅れるぞ」

「あっ、いけね」

「あと何分だ」

「んー、やべっ、あと十分!」

腕時計を見た途端に高尾は慌て出す。ほら見たことか。ここで乗り遅れては元も子もないだろうに。

「まったく…急ぐのだよ」

「おう。あー、こういうときチャリだったら便利なのにな」

「実家から持ってきたらよかったのだよ」

「無理だって!さすがにでかすぎんだろあれ」

「そうか」

「てか年齢的にそろそろきついっしょ」

懐かしい乗り物を思いだし、高尾がけらけらと笑いだした。あれは便利だった。また機会があれば乗りたいものだ。当然、引くのは高尾だが。
目指すは電車で三十分程のデパート。そこで買い物をして、近くにあるという和食の少しお高い食事処に行く予定だ。こういう日くらいは贅沢しようぜ、と高尾が言い出したのだから、今回はそれに甘えるとしよう。
鞄のなかにはちゃんとラッキーアイテムの羅針盤も入っている。高尾は相変わらずおは朝ひでえと笑い転げたが、ギリギリ鞄に収まるサイズなのでむしろ有り難かった。さすがに狸の信楽焼などだったら街中で持ち歩くなど大きさ的に厳しいだろう。
補正も完璧、空模様も良好。少し急ぎ足にはなってしまったが、悪くない一日になりそうだ。


 


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