頭が痛い。完全に昨晩の飲み会のせいだ。
高校時代の仲間と久々に会ったものだから、さすがに飲みすぎてしまったかもしれない。どうせまだ夏休みなのだし昼まで寝ていても誰にも怒られないだろう。二日酔いを押し込めるように、掛け布団代わりのタオルケットを頭まで被る。今朝はお盆前にしては珍しく、少し涼しかった。

「みーやじさあん!おはよーございますっ」

ばさり。ばたばた煩い足音がしたかと思えば、途端にタオルケットが剥ぎ取られた。

「っ…んだよ…」

「もう朝っすよ!パン焼いたんで、あったかいうちに食いましょうよ」

ぼんやりとしたまま目を擦ると、ベッドの脇に立って俺の顔を覗き込んでいる小さな頭が見える。そのまま肩をゆさぶられ、頭痛がしたものの徐々に頭が回ってきた。そうか、そういえば今俺は独り暮らしではなかったのだ。

「……あー、ん、今行く」

「じゃ、コーヒー入れてきます」

そう言い残して高尾はまたぱたぱたと台所の方へ駆けていった。数日間の付き合いであるが、いったい赤司にどういう育て方をされたのか高尾は基礎的な家事ならそつなくこなす。しっかりものどころの話じゃない。まったくのHSK(ハイスペック子供)である。
ベッドから重い体を引きずりだして、ずるずると壁づたいにリビングへ歩く。もっとも、所詮は学生の部屋なのでほんの数歩でたどり着くのだが。

「おはようございます」

寝室とリビングを隔てた扉を開けると、先程のものとは違う子供の声が足元から聞こえた。視線を落とすと、緑色の髪をした少年が涼しい顔をこちらに向けている。やけにぴっしりと正座をしたそいつは、どうやらこんな朝早くからテレビを見ていたらしい。部屋の隅に鎮座したテレビからは明るい女性の声が響いている。

「あー、はよ」

と、丁度"いつもの"占いが始まり、そのまま緑間はふいと顔をそらした。緑間はこの時間の占いを盲信していて、赤司の金にものを言わせてラッキーアイテムを欠かさず持ち歩いている。高尾もだが、こいつもいったいどういう育て方をされたのだろう。赤司ってば甘やかしすぎじゃねえの。

「おまたせー。さ、食べましょ」

高尾が机の上に大皿に乗ったパンを運んできた。食パンとジャムだけの軽いものだったが、全く腹は減っていなかったのでむしろ有り難い。
三人で食卓について、高尾の号令で手を合わせて食べ始める。俺も小学校の時はよく合掌の号令させられてたななんて考えながら、こんがり焼けて香ばしい食パンを口に運んだ。

「真ちゃんはココアでいいよね」

「ああ。お前は…」

「俺は牛乳!真ちゃん最近背伸びてんだもん!負けらんねえ!」

高尾がマグカップの中身を一気に飲み下す。へえ、身長は緑間の方が高いのか。俺からしたらどちらも小さいのであまり意識していなかったが。
そういえば、こうして会話のある食事もこいつらが来るまでは随分とご無沙汰していた気がする。なかなかに生意気で騒がしい奴らだけれど、まあ、悪くはないかもしれない。

「なあお前ら、」

「なんふかー?」

「高尾、飲み込んでから喋れ。今日の昼、どっか食いに行くか」

「えっまじすか!?」

「どうせ赤司から金はたんまりと貰ってるからな。久々に外出ようぜ」

ついでに食料品も買い込んでおかなければ。なにしろ冷蔵庫はそのままに消費が約三倍になったのだから。二日酔いは相変わらずなものの、いざ起きてみればわりと普通に動くだけなら平気な気がする。

「やったあ!真ちゃん何がいい?」

「……おしるこ」

「はあ!?緑間、このクソ暑い中でんなもん食う気かよ」

「じゃあ、あんみつがいいです」

「真ちゃん、それもう主食じゃない」

高尾は目に見えて、緑間も落ち着いた様子は見せているがやはり嬉しそうにあれやこれやと食べたいものを挙げ始めた。まあ緑間は主にデザートにしか触れていないが。なんなの、餡子食べないと死ぬ病気なの?
その隙にコーヒーのお代わりを淹れてこようと立ち上がる。ところが真剣に話し合う二人の脇を通りすぎたところで、うっかりリモコンを踏んづけた。その瞬間、流しっぱなしだったテレビの画面が代わり、人でごった返した広場が映し出される。

『それでは、お盆に行きたい家族連れ向けの遊園地特集です!』

液晶の中で笑顔の可愛らしい女性アナウンサーがこちらを見つめていた。さっきまでの天気予報の落ち着いた様子とあまりにもかけ離れたテンションに緑間たちも驚いたのか、二人とも同時に画面に目を向ける。

『この××パークは、特大メリーゴーランドが大人気で…』

「わりい、リモコン踏ん、」

「すげー…!」

「馬が回っているのだよ…!」

これはどういうことだ。子供たち二人は画面に釘付けになってしまった。

「え、お前らまさか遊園地行ったことねえの?」

「はい」

「なー」

「いや、赤司くらいの金持ちのとこだったら行き放題じゃねえの?」

「赤司は忙しくて、なかなか外へは連れていってくれませんでした」

「そうそう。外で遊ぶ、っていったら庭の遊具くらいだったよな」

あ、庭に遊具まであるんだあの豪邸。まあ赤司なら納得か。なんたって赤司だし。赤司についてならもう滅多なことでは驚かない。
というかここで合点がいった。いくら子供でも外食でここまで喜ぶか?と薄々思っていたのだが、彼らにとって赤司の家の食事に到底及ぶとは思えない「外食」というのもまた夢の一つだったのだろう。

「宮地さん宮地さん」

「あ?なんだよ、」

「「遊園地に連れていって欲しいのだよ!」」

ところが「遊園地」というのはそれをさらに上回っていたらしい。こいつらの目がこんなに輝いているのは初めて見た。
いくらすかしていたって、いくら生活力があったって所詮はまだ子供。遊園地の魔力には勝てず、あっさりおねだりモードになってしまったようだ。高尾が緑間の口調を真似て連携してるし。

「この近くに遊園地なんてねえぞ?」

「今テレビでやってたところはどうなのですか?」

「あー…車で二時間、ってとこか」

「ならまだ間に合います!」

「行く気かよ!」

「俺はあの馬に乗りたいのだよ」

「俺はあの速いやつ!すげー楽しそう!」

またもや俺はおいてけぼりだ。二人は嬉々として様々なアトラクションを思い描いている。
……なんか、ここまで楽しげにされると断りづらいのだが。

「おいお前ら、まだ行く訳じゃ…」

「宮地さん!」

「お願いします…!」

ああもう、なんなんだこいつらは!ここまで頼まれて断れるわけねえだろうが!
別にきらきらした純粋な目で訴えてくる様が可愛いなんて思っていない。ただ、今まで一度も遊園地に行ったことがないというのは少しかわいそうだと同情しただけなんだからな!









▼お待たせしました!吉良さんに捧げます。
……ごめんなさい。「遊んで欲しいのだよ」じゃないですよね。色々間違ってますよね。
この設定の宮地さんは基本なんだかんだで子供好きなツンデレです。私の趣味全開です。お気に召さなかったらすみません…!
吉良さんのみ書き直し受け付けております。それでは、素敵なリクエストありがとうございました!もう一つのほうも後日書かせていただきますね。




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