※色々捏造




高校に入学し離れていた一年間で真太郎も変化していると確信したのは、あの大会の時。ほんの僅かだが見せた、チームメイトへの笑顔だ。
変わることは悪いことではなく、むしろ人として良い変化として僕自身受け入れてはいる。冬の大会で変わったのは、なにしろ彼だけではないのだから。僕だって多かれ少なかれ変わった自覚はある。
一年もあったんだ、変わらない方が可笑しいだろう。
けれど真太郎、やはり気に食わないものは気に食わないんだよ。

(高尾和成)

カチ、とボタンを押す音と共に、暗闇の中に浮かぶ液晶画面が一人の男の名前で埋め尽くされる。ラッキーアイテムにも見受けられるが真太郎は物を大切にする性分で、最近ではあまり見かけなくなったガラパゴス携帯を中学時代から使い続けている。久々のボタンの感触はあまり指に馴染まない。
それでもただひたすら画面を下へ下へとスクロールさせていくのは、愛しい恋人に悪い虫がついていないか確認するためだ。本人に自覚はないが、真太郎は大層見目麗しい。惚れた贔屓目などではなく、世間一般の常識を掛け合わせても。

(やはりね)

中学の頃は、僕や他の仲間が目を光らせていたから手を出そうという輩がいたならすぐにでも対処ができた。けれど学校どころか県すら離れてしまえば、いくら僕でも常に監視できるわけではない。
液晶を埋め尽くした、真太郎の相棒だという男の名前。やはり、と思うと同時に、深く溜め息を吐く。

「真太郎、あまり僕を心配させるな」

ベッドに腰掛けた僕の隣で、肩まで蒲団を掛けて眠る緑色の頭を柔く撫でる。汗と涙でまだ少しだけ赤みの残る頬に張り付いた髪を掻き、桃色の唇へ掠めるように己のそれを重ねた。夢の中でも違和感は感じるのか、ん、とくぐもった声を漏らしながら軽く身を捩る姿がどこか扇情的なのは、まだ先程の空気が残っているからなのかもしれない。
春休みだから、と半ば拐うようにこちらまで連れてきて良かった。この姿を自分以外の何者にも見せたくないと思った。別に真太郎が浮気をするなどとは思っていないが、不安に似た感情がよぎるのは自己の激しい独占欲のせいだろう。

「少し借りるよ」

聞こえている筈も、ましてや返事がある筈もない独り言が静かな部屋に響く。時計の針が指すのは十一時を少し回ったところで、春休み中とあらばほとんどの高校生は起きているだろう。
着信履歴を開き、一番上に表示された名前を迷わず選び発信ボタンを押した。数回のコールの後、聞きなれない男の声が鼓膜を揺さぶる。

『真ちゃん?どうしたんだよ、こんな時間に珍しくね?てか今日何で練習休んだのあっもしかして体調悪いとか、』

「君が高尾和成か」

立て続けに疑問をぶつける声を遮り、その男のものだろう名前を口にする。

『……誰だよお前』

疑うというより、威嚇するような口調。高尾という男は思っていた以上に察しが良いらしい。
さて、どうしようか。何も知らずに眠り続ける緑の髪を撫でる。温かな体温が掌に心地よい。

「そんなに警戒しないで。久しぶりだね、赤司征十郎だ」

僕が名乗った途端、電話越しに息を飲む音が聞こえた。彼と話すのは冬の大会以来だ。もっとも、あれが初対面だし、とても僕に好印象を抱かれるような出会いではなかったけれど。
別にこの男に好感を持たれなくてもどうでもいい。

『何でお前が真ちゃんの携帯使ってんだよ!』

「どうだっていいだろう、そんなことは。それよりも僕は君に話があるんだ」

『……っ!』

質問に答えないことは、さらに彼の不安を煽る材料となったようだ。ぎり、と歯が擦れる音が微かに耳に入る。
ああ、可笑しい。なぜ君がそんなに悔しがるんだい。広角がゆっくりと上がるのを感じる。嬉しいのではない、愉快なのだ。

「何も堅くならなくていい。ほんの一言だからね」

『……何だよ』

「真太郎のことは諦めろ。それだけだ」

『……!』

僕のものに手を出そうだなんて、相手が誰だろうと許すものか。ましてやこんな、何に置いても僕に到底及ばないような男など。真太郎に相応しい筈がない。この美しい彼に見会うのは、僕を置いて他にいる筈もないのだから。
電話越しの沈黙が優越感を満たしていく。高尾という男が真太郎に好意を寄せていることは、初めて見た時に気づいていた。今回ばかりは真太郎の恋愛面の鈍さが助けとなった。もっとも、僕がいる時点で他の男に乗り換えるなど彼にできるわけがないし、そんなことは僕が許さないけれど。

『何で、お前が、そのこと』

「僕が気付かない筈がないだろう。真太郎に悪い虫がつかないように、ね」

くす、と電話口で笑ってやると、高尾はそれきり黙ってしまった。けれど可哀想なことをしたとは欠片も思わない。
真太郎を好きになる気持ちは理解できるが、既に彼が僕のものだった時点でこうなる運命なのだから。そもそもこれで彼が真太郎のことを忘れれば、新しい恋でも何でもできるだろう。かえって感謝されるべきだ。

「ああそうだ、安心しろ。真太郎はちゃんとこちらにいるから」

『っ何で、』

「疑うのか?なら声を聞かせてあげるよ」

そうだ、まだすがり付いてくるこいつに思い知らさなければならない。真太郎の相棒でさえなかったら、もっと直接的に叩きのめすことができるのだけれど。そんなことをしたら真太郎が悲しむだろうから、歯痒くて仕方がなくてもここは我慢だ。

「真太郎、起きて」

「……ん、あ、かし……?」

蒲団の中で丸くなっていた肩を揺さぶると、掠れてくぐもった声と共にうっすらと翡翠色の瞳が開かれる。寝ぼけ眼の真太郎はまだ起こされるとは思っていなかったのか、どうしたのだよ、とぼんやりと手探りで僕に触れた。

「いや、眠っているお前が可愛くてつい、ね」

「……下らない冗談を言うな。俺は、まだ寝たいのだよ」

電話の向こうに聞こえるようにしつつ耳元で囁く。真太郎は一瞬びくりとしたかと思うと、すぐに背を向けてまた丸くなってしまった。けれどそれが照れ隠しなことなど、液晶からの光が色づいた耳を照らしたことで一目で分かる。

『……嘘、だろ。なあ真ちゃん、なんでそんなとこに』

「嘘なものか。それとも君は自分の相棒の声をわからないような奴なのかい」

夢うつつの真太郎は、どうやら僕が彼の携帯を握っているなど露も思っていないらしい。隣からは既にすうすうと規則正しい寝息が聞こえていた。この会話を彼に聞かれていたらいたで構わないのだが、万が一可愛い恋人に悲しい顔でもされたらさすがに僕の良心が疼くから、好都合だとしよう。

『っ……』

「なに、僕のものに手を出そうだなんて、良い度胸だと思っただけさ。別にこのまま真太郎をこちらに留めようとは思わない。少し悔しいけれど、真太郎は君達のチームが大層好きらしいからね」

ふふ、と笑いながら一気に捲し立てると、電話からは無機質な電子音が通話の終了を告げていた。大方耐えられなくなったのだろう。好きな子が他の男と寝ているさまを嫌でも伝えられたのだから、仕方のない反応だ。
ともあれ、かなりの牽制になっただろう。相手が真太郎に手を出そうだなどと思わなければそれでいい。

「真太郎、お前は永遠に僕のものだよ」

さらさらと細かい緑の糸を指で鋤き、男のそれとしては随分柔らかい毛先を掌で掬い口づける。
本当はずっとこのまま僕の手の届く範囲にいて欲しいけれど、彼はそれを望まないのだろうな。
まあいい、何も不安になることはない。何人たりとも、僕の手から彼を奪うことは許さない。
覆い被さるように真太郎の整った顔を覗き込み、白い頬に手を滑らせる。指先で桃色の薄い唇を捉え、口端を上げながら再び己のそれを重ねた。



(手離してやるつもりなんてない)








▼赤緑←高で赤司様が真ちゃんをつれてっちゃう話でした。すみません、シリアスとは違う気しかしないですね……。そして初赤緑です。とても楽しく書いたのですが、お気に召さなかったら申し訳ありません。書き直しはまるかめ☆からさんのみ受け付けております。
それでは、素敵なリクエストありがとうございました!




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