メモログ


卒業式が終わると、毎年恒例部活ごとの打ち上げだ。部室に皆で集まって、はなむけの言葉を送りあって。でも結局は、後輩たちはしばらくご無沙汰だった先輩たちに会えた嬉しさで、先輩たちは懐かしの部活に現役の頃にかえった気持ちになるのか、大騒ぎになる。
煩いのは好きではないが、この喧騒は不快ではなかった。なんだかんだで、俺も先輩には随分とお世話になった、と今では思っている。久々に聞く嬉々とした声も、怒鳴るような声も、涙と鼻水の混じった声も、全部、嫌いではない。涙が零れるわけではないけれど、一抹の寂しさは心の奥に確かに存在していた。

「真ちゃん、先輩たちに挨拶しに行かなきゃ」

先程まで雑踏のなかにいたはずだがいつの間にか隣にいた高尾が、ほら、とただでさえ多い部員がもみくちゃになった部室の中央を離れて、壁際の幾らか人気の少ない所に陣取ったかつて同じコートに立っていた先輩たちのを指差した。元レギュラーというだけあって、両手いっぱいに花束を抱えた三人の先輩。彼らは、明日から、本当にいなくなるのだ。

「わかっているのだよ」

談笑をする先輩たちは、冬までのおもかげとぴったり重なって、今でも変わらずここにあるものだと錯覚してしまいそうになる。けれどそんなことはもちろんなくて、たった二つの歳の差が、ひどく遠いもののように感じられた。

「ひょっとして悲しくなった?泣いたら俺が慰めてやっからな」

「黙れ。そうではないのだよ」

こんな日であっても、相変わらずへらへら体裁を取り繕う高尾の脇腹を小突く。隣からうえっとくぐもった声が漏れた。
泣きたいのはお前だろうが。そう思ったが、言っても意味がないので黙っておく。こういうときくらい、皮を剥いでもいいと思うのだが、高尾なりのプライドなのだろう。相変わらず、こいつの考えはよくわからない。掴みづらい、というのが正しいだろうか。

「ほら、いくぞ」

「へーい。仰せのままに!」

ばんと背中を叩いて、足を三人の方へ向けた。先輩たちは、つのる話しに夢中なのか俺たちにはまだ気付かない。
そうだ、泣いている暇はない。彼らのものだった秀徳の名は、今度こそ俺たちのものになる。これからの秀徳をつくるのは、間違いなく、俺と、隣を歩く相棒なのだ。涙をのむことや、吐き出したくなるようなことも山のようにあったけれど、彼らとともに積み上げてきた思い出と伝統を、風化させないように。
これからもここで、彼らとともにあり続けるために。これからを築く責務は、俺たちの背に託されたのだから。




(伝説を継げ)




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