彼の料理が好きだ。


ふわふわ卵のオムライス、レモンの効いたソースまで手作りのツナサラダ、とろとろに煮込まれたキャベツのスープ。昼頃に火神君の家を訪れた僕を出迎えたのは、そんな予想外のごちそうたちだった。

「どうしたんですか、これ」

「作ったんだよ。早く食おうぜ」

はあ、と気の抜けた返事を漏らして、かぐわしい香りの立ち込める食卓にならぶ椅子の一つをひく。それにしても美味しそうだ。いくら少食の僕とはいえ腐っても男子高校生、おまけに今は昼食時とくれば、お腹の虫が鳴きそうです。口の中にじわりと唾液が滲む。

「とてもおいしそうです」

「おう!今回のはけっこううまくできたんだ」

にっこりと、満面の笑みを浮かべて得意気に話す火神くんに、つられてこちらの頬も弛む。半分は、ほんとうにおいしそうな料理を目の前にして、というのもあるけれど。

「いただきます」

「残すなよ」

「はい、頑張ります」

「いや、無理して食べきれとは言わないけどよ」

かちゃりと手元のスプーンを取って、まずはオムライスに手をつける。ひとさじ卵に突き立てると、ふわりとした感触がスプーン越しに伝わってきた。
ぱくり、とそれを口に含めば、予想に違わぬ味が味覚を支配するわけで。

「……とても、おいしいです」

卵のとろみと、チキンライスのトマトの酸味が口の中に広がった。ああ、やっぱりおいしいです。火神君の料理なら、無理してなんていわないで、いくらでも食べられてしまえそうな気がする。

「おう!どんどん食えよな!」

頬をリスみたいに膨らませて僕よりもっとたくさん口に含んだ火神君に、思わず笑いそうになった。どんどん食えよ、なんて、言われなくても。
彼を見ている間も、手を休めることはしない。ただ黙々と食べているだけだけれど、こうやって二人で食べているんだと実感するのは、どうにも胸がきゅうっとなって仕方がないのだ。
食べる量では到底火神君に僕が敵うはずないのだけれど、それでも負けじと手を進める。あ、このスープもおいしいですね。








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