※高緑がショタ、宮地さんが大学生/タイトルまんま




「こんにちは、今日からお世話になります」

「……よろしくお願いします、……なのだよ」

どうしてこうなった。目の前に広がる光景と、右手で握りしめた手紙に絶句する。
独り暮らし御用達のボロアパートの自室の玄関に佇むのは、若者ばかりのこの建物ではなかなかお目にかかれないような年の少年が二人。十歳くらいだろうか、溌剌そうな黒髪と、俯いて目を会わせようとしない緑髪の少年が、年相応の小さな体躯にちょうどいいリュックを背に手を繋いで立っていた。
そして右手には昨日唐突に届いた手紙。差出人は「赤司征十郎」、言わずと知れた財閥の御曹司だ。俺自身はただの一般大学生なのだが、高校時代に部活を通して知り合い連絡先を交換した仲である。

「……一応聞くけどよ、お前らが緑間真太郎と高尾和成か?」

「そうでーす!あ、俺が和成で、こっちが」

「……緑間真太郎、なのだよ。俺たちのことは、赤司から聞いているはずですよね」

くい、とアンダーリムの黒渕眼鏡を押し上げながら、緑の髪の方の子供が返してきた。元気よく返事をした高尾とは違い、その高尾の陰に隠れるようにして随分とつっけんどんな口調だ。

「ごめんなさい、真ちゃん、あ、緑間はちょっと人見知りってゆうか」

「あ?」

「ま、素直じゃないだけなんで!すぐ慣れると思うっすよ」

「勝手なことを言うな、高尾」

高尾が明るく子供特有の無邪気な笑顔でフォローしているにも関わらず、緑間が態度を改める様子は一向にない。
ほんとにこれからこいつらの面倒をみなきゃなんねえのかよ。赤司の手紙に書かれていた内容を反芻する。
僕が引き取った子供たちに社会見学をさせたいから、しばらく預かってくれないか。赤司の財閥が孤児を引き取り育てていることは知っていたが、これはどういうことだ。
活動自体は何も後ろめたいことはないし、金持ちの屋敷にこもり世間を知らずに育つのはどうかと思うのは頷ける。しかし、なぜ俺なんだ。俺は一介の大学生であるし、当然育児経験もないのだが。

「お前ら、俺以外に当てないのかよ」

「えー、だって」

「ふん、愚問だな。赤司の言うことは」

「ぜったーい!」

「なのだよ」

無駄に良いコンビネーションだ。つか緑間、なんでてめえその年で愚問なんて言葉知ってんだよ。なかなか生意気だなこいつら。
しかし、彼らの主張に対し反論はできなかった。赤司の命令に逆らってはいけない、これは赤司に面識のある者達の中では常識である。
少なくとも俺の周りで赤司に逆らった奴などいないが、逆らうと社会的に抹殺されるだとか、色々な噂が絶えないのだ。個人的に赤司を悪く思うようなことはないのだが、たしかにあの一見穏やかそうな笑顔の裏に狂気が潜んでいることは前々から気づいていた。あいつならやりかねない、そう本能に訴える何かが。

「ということで、おにーさんは宮地さんでいいんすよね?」

「……あぁ」

「じゃ、よろしくお願いしまっす!」

「……よろしく、お願いします」

返事をする間もなく、行こうぜ真ちゃん探検だ!と、勢い勇んだ高尾が緑間の手を引いて俺の脇をすり抜けて行った。わりと定期的に掃除をしていて散らかっていない上に広さもないので探検するような場所ではないのだが、子供には関係ないらしい。
ぽいっと投げ出された小さな靴を揃え溜め息を吐く。赤司が何の目的でただの知り合いなだけの俺に白羽の矢を立てたのか皆目検討もつかないが、赤司から手紙が来た時点で俺に断るという選択肢は無かったのだ。
幸い今は夏休みの真っ只中であるし、手紙の追伸欄には彼らの生活費を保証する旨が記されていた。それに一人ならともかく二人纏めてなら、放っておいても勝手に遊んでいてくれるだろう。二人の仲も良さそうだし。
赤司の住み処は知っているから、俺の手に余るならばすぐに突き返しに行こう。俺の諦めと譲歩により、あいつらとの生活は始まった。








続くかもしれない。趣味全開ですね。




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