※さっきの続き/もはやハロウィン関係ない
「真ちゃん真ちゃん!」
「うるさいのだよ!聞こえているからドアを叩くな!」
「真ちゃんのお母さんが真ちゃんとお風呂入れって」
がらっとドアが開け放たれて、浴室を満たした蒸気を外の空気が冷ましてゆく。眼鏡を外していたのではっきりとは見えないが、霞む視界の中央に動くなにか、それと夜だというのにひどく元気な子供の声。
「しーんちゃん!」
「身体を先に洗え。ああ、髪もな」
いきなり肩を掴まれたかと思えば、何もかも小さい体躯は跳ねるように浴槽に飛び込もうとして。踏み台にされるのを押し留めて高尾の細い肩を掴みかえす。さすがに十近くも違う子供に負けはしない。
「じゃあ真ちゃん洗ってよ。だって俺、一人じゃうまくあらえないし…」
珍しくろくに抵抗せずにタイルの上へ足をつけたと思ったら、高尾は小さく首を傾げて此方にちらちらと視線を送ってきた。寂しそうな、不安げな幼い口調に一瞬心がゆらぎかけたが、忘れてはいけないこいつは高尾だ。子供だと思って嘗めてかかると色々おかしなことになる。例えば、以前同じ手に騙されたときは、俺が湯船から出たとたんに態度を百八十度変えた高尾に嬉々として抱きつかれ、結局離してもらえなかったりしたのだ。
「その手にはのらないのだよ。早く洗えば一緒に湯船につかってやる」
「ちぇっ…お嫁さんに背中流してもらうのって夢なんだけどなぁ」
「誰が嫁だ」
ちょっと待てなぜお前今心底意外そうな顔で俺を見た。洗ってもらうことを諦めたのかカエル型のスポンジでボディソープを泡立てる子供は、真ちゃんに決まってるじゃんとからから笑う。決まってねえのだよどういうことだ。身体を洗いながら戦隊もののオープニングを歌う横顔を睨むが、高尾は全く動じずに小さな口を動かした。
「だって初めて見たときから真ちゃん以外ないなって思ってたんだもん。俺が大人になったらお嫁さんになってね!」
……俺とお前が出会ったのは記憶が確かならお前が生まれた三日目なのだが。俺の母さんを訪ねてご両親に連れられてきたはずだ。今思えば、やたらと赤ん坊の視線を感じたのはそういうことか。おかしいにも程がある。
「おい、」
「おっわりー!」
しかし俺が口を開くより先に、勢いよく湯船に飛び込んできた高尾のせいで上がった水飛沫にそれを阻まれた。思わず目を瞑り飛沫を避けると、滑り込むようにして脚と脚の間に割って入った高尾がにやりと笑う。
「……あまり騒ぐなよ」
「わかってるって」
はあ、と一度深く溜め息をつく。肩口にすりよってくる子供の体温は暖かい。
なんだかんだで、子供相手に強く出られないというか。結局は自分になつく弟のようなものなのだ。何はともあれ可愛いと思ってしまったのは、絶対に言わないでおこう。
某方とお話したマセガキ高尾。ハロウィンをショタ祭りと勘違いしているあほは私です。
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