お前はくだらないイベントが好きだからな、とお汁粉をいきなり差し出された午前七時。朝練だから早めに迎えに来て、あいつが玄関から出てきたと思ったらこれだ。いまいち意味が飲み込めずに首を傾げる。
握りしめた缶はまだ温かい。てか俺真ちゃんみたいにお汁粉好きってことは全然ないんだけど、てかなんでいきなりお汁粉。

「えっと……一応聞くけど、なんで?」

さすがの俺でも理解の範疇を越えていて、素直に真ちゃんからのプレゼントだわーいとは喜べない。大人しく尋ねると、真ちゃんは至極意外といったふうに目を丸める。え、なにその反応。まさかの一般常識なかんじ?朝っぱらからお汁粉が?いやいやないない。

「お前、ハロウィンを知らないのか…!?」

「えっちょい待って。ハロウィン!?」

確かに今日はそうだけれども!そんなことはコンビニのディスプレイとかを見れば一目瞭然だ。
あ、もしかしてコレお菓子のつもりだったのか。なるほど言われてみれば甘いしお菓子の部類に入る、かもしれない。明らかに飲み物な気がするけれど。

「コレが真ちゃんからのお菓子ってこと?」

「当然だろう。それ以外に何がある」

自信満々に答える真ちゃんに笑いが込み上げてくる。耐えろ和成、今ここで真ちゃんを怒らせるわけにはいかない。
こっそり右手で左手をつねりつつそっかありがとーと棒読みで返すと、真ちゃんは満足げにふんと鼻をならした。くっそ、単純すぎんだろかわいいなおい。まあ真ちゃんからの滅多にない贈り物ですから、ありがたくいただくことにしますけど。

「あー、でも俺お菓子持ってないからさ」

プルタブに指をかけて静かに開くと、もわんと生暖かい甘ったるさが鼻におしかけてきた。口につけると、うん、甘い。ひとくちぶんだけ飲み下し、胸のあたりに残る暖かさは冷えた体に心地よかったけれど、やっぱりこの甘さは敢えて飲むもんじゃないなと一人頷いた。
けれどもう一度口をつけて、相変わらず甘ったる いそれを口内に含む。小豆の粒が舌を掠めるのと同時、油断しきったあいつの頭を掴んでにやりと笑った。

「っ、」

「ぷはっ…、どう?お汁粉の高尾ちゃん添え。俺からのお菓子ってことで」

真ちゃんにはお汁粉がお菓子になるんだもんね。お味はいかが、と唇を舐めながら尋ねると、真ちゃんは苦々しい顔で俺を睨んだ。

「外で何をするのだよ!というか俺がお前にやったものなのだから無効だろう!」

「やっぱだめ?じゃあいいよ、悪戯しても」

どうせお菓子は持っていないのだから仕方がない。誰も見てないから安心しろよ。忌々しそうに言葉を飲み込む真ちゃんは、せっかく警戒したのが無駄になったのだよとぶつぶつ呟いている。ああなるほど、真っ先に渡されたあれは牽制だったのか。
なかなかやるねえ真ちゃん。でも残念でした、狼さんはいつでも悪戯の機会を窺っているものなのだよ。




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