構えた銃は
 ただ只管に俺は銃を乱射した。狭い部屋の中でじりじりと、それでも確実に追い詰められていく現状と、リンに何かあったのではという不安が入り混じり言いようの無い焦りだけが俺の背中を押している。
 放つ銃弾は目の前の巨体にある程度の傷を負わせてはいるものの、対外は体に比例した大きな腕で受け止められてしまっていた。
 このままでは無駄に弾が無くなっていくだけだ。
 どうする、どうする――

「こっちよ、おばかさん!」

 ぐるぐると働かせていた思考を止めたのは、いつの間にか俺から離れていたジルの声だった。
 挑発するようなその言葉に、思わずタイラントと同時にそちらに顔を向ける。殺せるものなら殺してみなさいよ、と更に煽るような言葉を吐けば、目の前にいたはずの巨体は直ぐに動き出した。なんともまあ、簡単に引っかかるものだ。

 隠し切れない呆れともに、なぜだか当然のように浮かんでくる勝機。
 自信に満ち溢れた、それでいて真剣な顔が見れれば、もうこの戦いは勝ちが見えたようなものだ。そう思ってしまうあたり、俺はこの相棒にこれ以上ない信用と信頼というものを持っているのだと口の端が釣りあがるのを感じる。
 とはいえ、ただ見ているだけではいけない。

 あの顔が勝利を告げる条件は、俺がこうした状況下で出来るだけの抵抗、努力をすることだというのは長い付き合いで分かりきっている。
 狭い部屋の端に立つジルに勢いよく突っ込んでいく後姿を見ながら、俺は残り少ない銃弾を数発、無防備な背中に打ち込む。何の障害も無く着弾した弾は広い背中に埋まり、タイラントのコートに赤を滲ませる。
 
「ジル!」

 今だ、と続けると同時にジルは突っ込んできた巨体を横へと華麗に避けて見せた。
 出せるだけの勢いでジルに突っ込もうとしていた体がそう簡単に止まるはずも無く、タイラントの巨体はジルが背にしていたモニターへと派手な音を立てて吸い込まれていく。

 まるで事前に合わせていたかのように、俺たちは尻を突き出す形になっているタイラントの後ろに回りこむと、それぞれが持っている銃を無防備な巨体に向けた。

「終わりね」

 軽く小首を傾げて見せた相棒の手の中にはいつの間にかマグナムが握られている。
 2種類の銃声が数回狭い部屋の中で反響すれば、頑丈そうな巨体もやがて動かなくなり、制御室に再び静寂がやってきた。
 お互いに肩で息をしている状態。ソレをやはりお互い横目で確認すればどちらとも無く拳をコツンとぶつけ勝利の喜びを分かち合う。

 きっとこういうことをしているから、仲間に実は付き合っているのではないかなどと尋ねられてしまうのだろう。そんなことはありえないというのに。
 どうあがいたってジルは相棒で、それ以下でもそれ以上でもない。それは一緒に行動を共にし始めてからずっとだ。

 もう一度相棒のほうへ視線をやると、同じことを考えていたのか、はたまた違うことなのか。――相棒の俺からするとたぶん前者なのだろうが、ジルは俺の顔を見上げ若干困ったような苦笑いを見せてきた。

「リン、探しに行きましょうか」
「あぁ、急ごう」

 お互いに軽く頷きあい、警戒をしながらもタイラントに背を向けて壊れた扉のほうへと体を向ける。

 ――コツン

 静かに響いた小さな音に、俺たちは同時に銃を構えて振りかえった。
 視線と銃口を部屋中に舐めるように沿わせてみるが、とくに何かが現れたわけでも、タイラントが動きだしたわけでもない。
 ならばさっきの音はいったい――?

「あれは……」

 視界の端に移ったソレは、確実に何か怪しいものを探していないと視界にすら止まらないような小さなピルケースだった。落ちている場所から察するに、どうやらタイラントのコートから滑り落ちたようだ。
 いかつい巨体に似合わない少しファンシーな柄のピルケースを開けば、俺の眉間に皺がよったのを感じた。

 ―プロジェクト・ワインー

 ピルケースのなかに大切に保管されていた小さな小さな銃弾。そのひとつひとつに、あの忌々しいウイルスの名前が彫られているのだ。

「これ、本物かしら……」
「わからない、ただわざわざ弾薬にウイルスを入れる必要があるのか?」

 感染させるためとか?と首を傾げるジル。サラっと零れた髪を視界の端に捕らえながら俺は自分の顎を一撫でする。
 確かに、こうして弾薬に詰めれば遠方から感染させることが出来るかもしれない。しかし、下手な場所に銃弾が当たれば感染するよりも早く感染予定の人間が死んでしまうのではないだろうか。そうなれば感染拡大どころの話ではなくなる。
 ならこれは――?
 ここまで考えて、ふと頭をよぎった人物にはっとした。
 なあジル、と声を掛ければ彼女は何?と首を傾げる。

「俺は科学者でも研究者でもないから確証は持てないんだが」
「ええ、何?」
「同じウイルスを多量に接種した場合、どうなるんだろうな」

 俺がそう静かに告げれば、ジルは言わんとしたことが分かったらしい。キリと整えられた眉が少し上へ持ち上げられた。
 ピクリとも動かなくなったタイラントを視界の端から外しながら、俺は空けていたピルケースから銃弾を抜き取りソレを閉じる。
 試す価値はありそうね、と呟いた相棒の声とピルケースが閉じるときに奏でたカチリという乾いた音が重なった。
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