時は遡って、リンがウォルと制御室へと走っている頃。俺たちは只管に銃弾を放ち続けていた。
うめき声が廊下に響き、ゆらりと伸ばされた手を銃で殴り落とし無防備な額に向けて2発の銃弾をお見舞いする。
「くっ、数が多いな」
「もうすぐよ、もうすぐリンたちがシャッターを降ろしてくれるわ!」
いくら倒してもきりが無いゾンビの群れに弱音を吐けば、隣で応戦していたジルから叱咤が飛んだ。
そうだ、こんなところで弱音を吐いている場合ではないのだ。此処で俺たちが飲まれてしまえば、下で制御室に向かっているリンとウォルに危険が及ぶ。
そう考え気持ちを持ち直してみるが、現実はそううまくいかず持ってきていた銃弾が湯水のように無くなっていく。
その時だった。
ガシャンガシャンと廊下の奥から聞こえてくる音。中央階段のそばのシャッターが降りたのを目で確認して、俺はこの作戦の成功を喜んだ。
「クリス!!」
しかし、聞こえてきたジルの声は喜びの声ではなく、むしろ動揺を隠し切れないと言わんばかりのもの。その声に弾かれるようにして後ろを見れば、降りる予定のないシャッターが今にも閉まろうとしていた。
「走れ、ジル!!」
ゾンビたちに背を向けて、出せるだけのスピードで足を進めるが、無常にもシャッターは俺たちの目の前で音を立てて道を塞ぐ。
シット、と思わず出た言葉。振り向けば数メートル先にはゾンビの群れ。その奥に閉じられたシャッター。
「まんまと閉じ込められたわね」
「あぁ、何とかして此処から脱出しないとな」
弾も残り少なく、無駄に使うだけの余裕は正直言ってない。ソレならば何とかしてゾンビを相手にせずここから逃げ出すしか方法はない。
どうする、どうする。なにか、ダクトシュートでもなんでもいい、なにか――!
焦りを隠すことなくきょろきょろと動かしていた視界に飛び込んできたものに、俺は思わず声を上げた。
「ジル、あれだ!!」
そういって指を指したのは、俺がぎりぎり通れそうな大きさの通気口。だいぶ高さはあるが、ジルを手に乗せて上に上げればいけるだろう。
俺は通気口の下で手を組み、腰を落とした。
「急げ!」
「行くわよ!」
ジルの片足が手の上に収まったのを確認し、俺はソレを上に投げるようにして持ち上げた。
バランスをうまく保ち通気口の中へと入ったジルはうまく体を反転させ、そしてすっと手を伸ばしてくる。俺はためらうことなくソレを掴み思い切り固い床を蹴り上げた。
自分の体の大きさも、ソレによる重さもそれなりに理解しているので、なるべく自分の力だけで上ろうと壁を遅れた足で蹴る。
「なっ――!?」
いつのまにか追いついていたのか、遅れていた足に絡みつくゾンビたちの手。がむしゃらに足を蹴って払ってみるが目の前の“食べ物”に目が眩んでいるらしく、払っては次の手、払っては次の手ときりが無い。
このままだと引き摺り下ろされてしまう。と、焦りを感じると同時に狭い通気口内で反響した銃声。
「クリス、早く!」
「すまない、ありがとう」
狭い通気口の中で俺の体の隙間を縫うようにして伸ばされた腕には、彼女の第二の相棒といえる拳銃。その銃口は静かに硝煙を上げており、それに助けてもらったのだと理解できる。
なんとか掴まれていた足を自分の方へと寄せ、もう一度礼を述べれば、ジルはふっと笑顔を浮かべ先ほどのように器用に向きを変え奥へと進んでいった。
後ろではまだゾンビたちのうめき声が聞こえていた。
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