猟師は強い
 もともと予定していた2階の連絡通路からの脱出は却下となり、私たちが目指すのは屋上にあるヘリポートとなった。どうやら私とジルを待っている間に、クリスがヘリを屋上に来るように手配をしていてくれたらしい。
 問題は、どうやって上に行くか、だ。
 屋上に行くためには、B.O.Wが放たれているという5階を抜けなければならない。護らねばならない人間が2人もいる状態で、通り抜けるのはかなり危険だというのは私にでも分かった。

「どうにかして奴らの足止めが出来れば何とかなるんだが」

 クリスの言葉に難しいわね、とジルが呟いた。
 この校舎にある階段は3つ。校舎はL字型に建てられており、校舎の両端と、その間に大きな階段が1つ配置されている。おもに生徒が使う階段は真ん中の中央階段であり、校舎の端にある階段は使い勝手が悪いため、あまり使う人はいなかった。
 屋上に続く階段は、校舎の端、西にある階段だけだ。今私たちが上ってきた階段は、逆側の端にある南階段。

 いつもどおり生徒がうろついている時間帯に起きたバイオハザード。きっと、使用用途が高かったその中央階段は大方ゾンビたちに占拠されているだろう。しかし、屋上へとあがるためにはそのゾンビだらけの階段の前を通らなければならないのだ。
 私達は頭を抱えてしまった。どうにかしてゾンビたちの足を止めることが出来ればいいのだが。

「あの」

 考え込んだ末の静寂を破ったのは、ウォルだった。

「防火シャッターを下ろせば、少しくらい時間稼ぎが出来るんじゃないかな」

 そういえば、こんな状況なのにシャッターはひとつも下りていなかった。火災が起きたときでないと降りないのだろうか。

「シャッターを下ろすのは良いアイディアだな。どこかに制御室か何かがあればそこで操作できるだろう。どこにあるか知っているか?」
「3階の西階段の近くです」
「そういえば、ありましたね。でも、西階段にあるなら無理じゃ……」

 そうね、とジルが賛成の言葉をわたしの隣で呟いた。

「僕に作戦があるんです――」



 静かに続けられたその作戦に、私は思わず目を見開いてウォルを見てしまった。
 確かに、彼の作戦ならば大量のゾンビに囲まれることはなく制御室にいけるだろう。しかし、その作戦を遂行するには――

「よし、それでいこう」

 クリスの予想外のGOサインに、私の顔が歪んだのが分かった。それに気がついたクリスが彼より頭2つ分くらい下にある私の頭をワシャリと撫ぜる。

「大丈夫、成功するさ。成功、させてみせる」

 だから安心しろ、と彼は微笑んだ。私は頭におかれたクリスの手を胸の前で握り、そしてすがるようにして、顔をジルへと向けた。
 作戦を理解したとたんに銃のチェックを始めていたジルは、私の視線に気がついたのか、安心しろというようにパチリとウインクをする。どうして、この人たちはこんなにも強いのだろうか。

「さぁ、作戦開始、だ」

 じわり、とにじんできた視界を袖で拭い、私はクリスの声にひとつ頷いて見せた。
 少しでも早く、終わらせて見せる。
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