猟師の誤解
 あ、そうだ。と声を上げたのはウォル。クリスが続きを促すように少しだけ首を傾げれば、ウォルはこれから向かおうとしていた連絡通路のある方向をすっと指差した。

「あそこからは脱出できないですよ、僕向こうの校舎からこっちまで逃げてきたんです!一応扉の鍵も閉めているし、机とかでバリケードも作ったんでなだれ込んでくることはないだろうけど……」
「あなた、1人で逃げてきたの?」
「はい。友人たちはすでに……」
「そうか、頑張ったな」

 顔に影を落とすウォルを見ながら、ゾンビに追われて一人で逃げ切ったなんて、なんて勇者なのだろうか。それも、こんな建物の中で。そう、思わず感心してしまった。
 1人で逃げ切ったなんてすごいね。そう声を掛ければウォルの顔から影は一気に消え、少し血色が良くなったかな、と思った時にはありがとうございます!と大声で感謝されてしまった。
 そういえば、ウォルは正直常に顔色が悪いと思う。こんな事件に巻き込まれているから、というのもあるのだろうが、色白で少しこけた頬、金に近いクセ毛の痛んだ髪。それにそばかすがあって、にきび跡もあって。失礼だが、たぶんもともと健康そうな顔ではないのだろう。

「リン、どうかしたの?」

 横から聞こえた声にハッとすれば、首をかしげながらジルが私を見ていた。置いていかれるわよ?と続けられた声に前を見ればそこにクリスとウォルの姿はなく、驚いて振り向けば、先ほど来た道を引き返している2人の姿がある。

「もしかしてリン、ウォルみたいなのがタイプ?」
「ええええどうしてそんな話に」
「だって、ずっと見てたじゃない。なるほどねぇ、ああいうヒョロッとしたのがタイプ、ね。此処から出たらメアドでも交換したらどう?恥ずかしいなら私が間に入ってあげるわよ。そうね、メモか何かにリンのメアド書いてくれれば、渡してあげるわ」
「ちちち、違う!違います!わ、私どっちかっていうと、クリスさんみたいにガタイのいい人のほうが――」

 にやり、とジルが笑ったのが見えた。
 墓穴、掘ったのかもしれない。

「あら〜、なんだそっちだったのね!勘違いしちゃってごめんなさい、クリスのメアドなら知っているから、後で教えてあげるわね」
「いや、あのそういう意味でも」
「照れなくていいのよ!いいわね、若いって!」

 ごめんなさい中身はそろそろアラフォーになります。
 きゃあきゃあと騒ぐジルに、こんな状況で緊張感ないなぁ、と心の中で苦笑いをこぼした。もちろん、こんな話しをしていた私自身にも言えることだが。

「も、もう、ジルさん、行きましょう。階段のところで不思議そうな顔して2人が待ってますよ」
「ジルでいいのに」
「年上ですから」

 頑固ね、なんて呟くジルの背中をグイグイ押せば、ようやく彼女も自分の足で進み始め、私達は足早に待たせている男2人の元へ向かった。
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