ウォル
 2階へと降りて、さぁ連絡通路まで走りぬけよう。と3人で踏み出した瞬間だった。
 ガラッと勢い任せに教室の扉が開いた。中から転がり出てきたのは、ゾンビ――ではなく、眼鏡をかけた少年だった。いや、少年といっても私と見た目年齢はそこまで変わらないのだが。

「ひ、ひぃぃ!撃たないで!撃たないでください!人間です!」

 転がり出てきた少年は慌てて立ち上がると、今ににも泣き出しそうな顔で両手を上に上げて自分が無害だとアピールをする。その行動にクリスとジルはとっさに構えていた銃をようやくおろし、驚かせてすまない、と苦笑いで口にした。

「君も此処の生徒か?」
「は、はい。ロッカーに隠れていたら足音と話声がしたから人だと思って……」
「貴方もロッカーに隠れていたの?この子も隠れていて助かったのよ。ロッカーに隠れているかもしれない、って考えはゾンビたちの頭には浮かばないみたいね」

 おどけるようにジルがそう口にすれば、そうなんですか?なんて少年のこわばった顔が少しだけほぐれたのが分かった。BSAAはこうして人をリラックスさせるのも得意なのだろうか。
 自己紹介をしあっている3人を見ながら、私は少年が出てきた教室の仲をちらりと覗いた。他の教室と同じく中は血だらけ。あまり見ているとせっかく少し収まっていた吐き気が戻ってきそうだ。

「君は?」

 私の視界を遮るようにヒョコリと顔を覗かせてきたのは、例の少年だった。結構近い距離で覗き込まれた私は、驚きを隠すことも出来ずに肩をビクリと揺らし1歩だけ足を後ろに下げてしまう。それを見た少年の顔は、明るいものから途端に申し訳なさそうな顔に変わった。

「あぁ、ごめんね驚かせちゃった」
「あ、いや、あの、此方こそすいません」
「いいさ、急に覗き込んだ僕も悪いし。僕の名前はウォル。君は?」

 ようやく先ほどの質問に少年、ウォルの話が戻り、ああ名前を聞かれていたのかと心の中で納得した。

「私はリン」
「リンさんか。短い間になるけどよろしくね」
「は、はい。一緒に脱出できるようにあきらめないで頑張りましょうね」
「うん、脱出できるといいね!」

 さっきの申し訳なさそうな顔が一瞬でなくなり、彼の顔には楽しそうな笑顔が浮かぶ。良くこんな状況でそんな笑顔で笑っていられるな、と思う。きっとポジティブなのだろうけど。私ももっと前向きに物事を考えたほうがいいのだろうか。
 そんなことを考えながら、差し出されていた手を握り返し私もぎこちなく笑顔を返せば、今まで黙っていたクリスが優しい声で出発だ、と告げた。
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