パンドラボックス
 輪廻転生、なんて嘘だと思っていた。死んだら天国に行くでも、地獄に行くでもなく、無だと思っていた。だって、そんなものがあるだなんていう証拠がないから。
 でも、身をもって私は知ってしまった。死後の世界があること。生まれ変わることがあること。そして、

「いせ、かい……」

 私が暮らしていた世界のほかにも、世界があるということを。


 此処が異世界なのだと気がついてしまったのは、私がこの世界に生を受けてから3回目の誕生日の日だった。誕生日お決まりの歌を両親に歌われ、胸いっぱいに抱きしめた幸せな気持ち。そんな気持ちを抱きながら幼い私は、ショッキングピンクに彩られたケーキの、また色鮮やかなろうそくを一気に吹き消す。
 フッ、と部屋が闇に包まれた。その瞬間だった。
 まるで映画を見るかのように視界を埋め尽くした、見知らぬ、けれど知っている光景。
 前世の、記憶だった。
 ソレはまるで開け放たれたダムのように、衰えることを知らずに一気に私を飲み込む。両親、友人、恋人との記憶。幸せだったこと、悲しかっこと、憎らしかったこと。そして、甲高いクラクションの音を最後に、映画は終わりを告げた。
 あぁ、生まれ変わっていたのか。
 瞬時に、そう、理解した。
 ソレと同時に、今私が生きている世界が異世界だということも理解してしまった。

 異世界。そんな考えに至ったきっかけは前世で父がはまっていたゲーム。確か名前は、そう、BIOHAZRD。とてもグロテスクなゲームで、私はゲームの表紙に乗っているキャラクターを見るだけでお腹いっぱいだった。そのゲームにはラクーンシティという町が出てきて。――そして、何の因果か、私はそのラクーンシティ生まれだった。

 いやいや、まさかそんな、冗談だろう。
 最初はもちろんそう思っていた。
 でも、バイオハザードに巻き込まれてしまっては、そんなことも言えなくもなってくるだろう。


 鼓膜を叩く叫び声、低いうなり声、何かを租借する音。鼻をつく死臭。何か大きなものの息遣い、気配、足音。変わり果てた姿のクラスメイト。我が物顔でうろつく化け物たち。
 あぁ、此処も時間の問題だろう。
 掃除用ロッカーの隙間から見える外の惨劇に、私はただひたすらに吐き気を抑えるので精一杯だった。


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