セピア色の景色の中で幼い私は泣いていた。1人でしゃがんで、ただただしくしくと。
そうしているとやがて目の前に現れた1人の女性。彼女は勤めて優しい声色で私の名前を呼んだ。
「どうしたの、凛」
しくしくと泣き続ける私の前にしゃがみこんだその女性を、私は知っていた。
「おかあさん」
それも、前世の。もう二度と会うことのできない人の1人。
「はい、なあに?お母さんに言ってごらん」
「あのね、みんなが凛のことをいじめるの」
「あら、どうして?」
笑顔を浮かべたまま、母は黒髪を零すようにして首をかしげる。
私はその黒を見た後に、目に当てていた手で自分の髪を触り一言。赤毛だから、と。
「お母さんは好きよ、凛の髪。情熱の色で、暖かくて、生きている証の色」
「みんながいうの。凛はおかあさんの本当の子どもじゃないって」
「まぁ!お母さんはいっぱいお腹を痛くして産んだのに失礼ね。大丈夫、凛はちゃんとお母さんの子どもよ」
「ほんとうに?」
「本当よ!」
もう、おばかさんね。と母はぎゅうっと幼い私を抱きしめて、私の忌々しい赤毛を撫でた。
「凛、あなたなら大丈夫。きっと誰よりも心優しい子になれるから。だから、此処で諦めたらだめよ?」
「お母さん……?」
いつの間にか私の見た目は19歳になっていて。それでも母は私をぎゅうぎゅうと抱きしめたまま。私がおそるおそる背中に腕を回せば、抱きしめる力は更に強くなり、少し苦しいほどだった。
「これから、苦しいこと悲しいことつらいこと、たくさんあると思う。でもね、決して挫けないで。“彼”の悲しみを、唯一あなただけが理解して受け止めることが出来たように、他にもあなたにしか出来ないことがあるの。だから、ね」
いつの間にか母の姿はなくなっていて。代わりに降り注いでくる目が眩むほどの、けれども暖かな光。なぜかその先に大切なものがあるような気がして、私は吸い込まれるようにしてゆったりと手を伸ばす。
「さぁ目を覚まして、凛」
最後に聞こえた声が、重なって聞こえた。
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