赤ずきんちゃん
 平気だった。陰口を言われるのが、好奇の視線を浴びるのが、嫌われるのが、苛められるのが。
 慣れてしまえば、特に苦でもなかったのだ。前世でも、今生でも。

 そんなのは、嘘だ。
 つらかった。陰口を言われるのが、好奇の視線を浴びるのが、嫌われるのが、苛められるのが。
 慣れたふりをして、泣き出しそうな自分の本音から目をそらしていたのだ。
 前世でも、今生でも。

 そんな凍りついた気持ちを溶かしてくれたのは、クリスとジルなんだと思う。
 特に何かしてもらったわけでもない。それでも、ただ普通の人に接するように接してくれる。ただそんな平凡なことが、何よりも嬉しくて、何よりも手放したくないものだったのだ。

『リン』

 私は先ほど恐怖した。ウォルの言った言葉でクリスとジルが私を突き放すのではないか。嫌われるのではないか、と。
 私の名前を呼んでくれた優しい声を、私はなくしたくなかった。クリスとジルに、嫌われたくなかった。
 きっと、ウォルもそうだったのだろう。嫌わないでくれと、拒絶しないでくれと。元をたどれば、彼の求めたものは私も求めていたもので。彼は、すがりつく方法を間違えてしまっただけで。
 私は、彼を拒絶した。オオカミになんてなりたくないと。

「ウゥア……ア、リン、アアアアアアアア」

 走って逃げたくせに、逃げるしか私には出来ることは無いのだと考えたくせに、私は連絡通路の開け放たれた扉の前で座り込んでいた。
 苦しいやら、情けないやら、悲しいやらでほとほとと1人で涙を流しているところに現れた異形のB.O.W。ひっ、と喉が引きつったが、ソレとぴたりと目が合えば怖がることなんてなくて。
 振り上げられた巨大な爪は私への復讐だろうか。
 私にはそれを避ける資格はない。この爪は彼の怒りと、縋りなのだから。まぁ、もう動くだけの気力なんてないのだけれど。
 バラバラとヘリが起こす雑音と、後ろからはあわただしい足音が聞こえる。

「ごめんね、ウォル」

 私だって、オオカミだった。

 せめてもの償いに。私は両手を目いっぱいに広げて。先ほどジルが私にしてくれたように彼の涙を受け入れよう。

 顔の右側に鋭い痛みが走り、すぐさま私の体は熱すぎる風に包まれたのだった。
[ 19 / 22 ]
prev-next
△PAGE-TOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -