オオカミは笑う
「く、は、ははははは!!!」

 私と目が合った。
 そう思った途端、ウォルは笑い声を上げ始めた。先ほどまで怒り狂っていたとは思えないほど、それは楽しそうに、それは悲しそうに、それは苦しそうに。まるで壊れたような彼の笑い声が、小さな部屋に響く。
 ウォル、と動揺を隠し切れない声で私は声を掛ける。それと同時に赤い目が、私を、否、私たちを睨みつけた。まるで親の敵を見るようなその目に、私の体はびくりと動かなくなる。

「よくこの短時間でそこまで調べ上げたよね。タイラントが君たちと遊んでたはずだけど」
「あれはやはりお前のペットだったか。悪いが倒させてもらった」
「なるほど?そんなのは君たちがコソコソと嗅ぎまわるのには支障がなかったってわけだ」
「棘のある言い方ね、性格悪い」
「はっ、弱いものいじめが得意なお前たちに言えたことじゃないでしょ」

 弱いものいじめ?と思わず呟けば、ようやく私だけを視界に入れたウォルが嬉しそうに顔をほころばせる。首筋の後ろが、ゾワリとした。
 私の心がこわばったのを、確かに感じる。

「そうだよ、リン。そいつらは弱いものを苛めるのが大好きなんだ。君もそこにいたらまた苛められてしまう。さぁ、こっちにおいで」
「被害妄想はやめるんだ。おとなしく降伏しろ」
「被害妄想!?事実じゃないか!!いいか、此処はオオカミ共がうごめく地獄だ。そんな中僕は何度だって助けを求めた。けれど周りは何一つ変わらなかった。だから僕はそんな汚い世界をひとつ、終わらせてやっただけだ!!いいか!!僕は加害者なんかじゃない!!僕は――」

「ウォル、自分だけが被害者だとでも思ってるの?」

 自分でも驚くほど冷え切った声が、彼の言葉を遮った。驚いた目で見てくるのは、ウォルだけではなくクリスとジルもそうだ。
 イライラしたのだ、とてつもなく。理由はわからないけど、口が勝手に動く程にイライラした。

「リン、さん……?」
「ねえ、ウォル。私、赤毛だからって訳の分からない理由で苛められてました。確かにこの野郎とか思ったことあるます。でも、復讐しようなんて、一度も思わなかった。何でだか分かりますか?」

 私、オオカミになんてなりたくなかった。

 ウォルの顔が、絶望に染められたように見えた。
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