ぶどう酒の祝福
 微笑を消したウォルの目は、ぞっとするほど赤かった。たとえるのなら、爬虫類の瞳。

「リンも可哀想にね。その髪の毛のせいで苛められていたんだよね?これだからこの学校の連中は嫌いなんだ。見た目でしか判断できない。僕もリンも、そんな屑達よりずっと価値のある人間だというのに」
「価値、のある人間……?」
「そうさ。こうしてバイオハザードを生き残ったことが何より証拠さ。神は誰が生き残るべきか知っているんだ。でもリンはまだ足りない。君は僕の隣に立つ資格があるんだ。だから、ほら、腕を出して。この薬を打てば、晴れてリンも僕の仲間入りだ。何よりも神に近い存在になれる」

 言っている意味が理解できなかった。彼は、いったい何を言っているのだろうか。神?価値?資格?
 自然と首が横に動き出す。頭が理解し始めている。彼の言っている内容を、ではない。
 現状が、いかに危険なのか、を。

「おっと、どこに行くんだい?」

 ぱっと、駆け出そうとした体は制御室のときのようにウォルに腕をつかまれる形で止められた。
 まずい。危険だ、あの薬は危険だ。
 頭が、腕が、足が、心臓が、目が。全てがウォルの手の中にある赤紫の液体に、煩い位の警鐘を鳴らしてる。
 逃げなければ。注射器の針から、薬から。ウォルから。
 グイグイと腕を引張るが、ひょろひょろとした腕のどこにそんな力があるのか、いくら力を入れても腕はピクリとも動かなかった。

「君だけなんだ、僕を見てくれたのは。どうして、今になって拒絶するの?あんなに優しくしてくれえたじゃないか。僕を拒絶するなんて許さない。そんなの許さないよ。君は僕と一緒になるんだ、リン。あぁ、大丈夫怖がらなくていい。最初は少し苦しいかもしれないけど、直ぐになくなるさ。そしたら、すばらしい力が手に入る。一瞬の辛抱だよ。だから暴れないでくれるかな僕は君を傷つけたくないんだ」

 赤い瞳が三日月を描けば描くほど、掴まれた腕からミシミシと嫌な音が聞こえてくる。
 痛みに抵抗が弱くなれば、チャンスといわんばかりに、赤い液体を滴らせた針が私の腕へと近づく。
 あぁ、もう、終わった。私は誰一人守れずに、化け物になってしまうんだ。
 ぽろり、とこらえきれずに涙を零して、私は目を閉じた。

 ――タァンッ

 聞き覚えのある、乾いた音が聞こえた。
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