忘れ物
 作戦成功後の待ち合わせ場所は、4階西階段。私は息を整え、すぐさま制御室を飛び出した。
 ――が。

「ウォル……?」

 くいっと腕を引かれて、私の体は前へ進むのをとめられる。私の腕を引いたウォルは泣きそうな顔を浮かべながら私を見つめていた。

「どうしようリンさん!」
「な、なに、なんですか」
「僕、研究室に大事なものをおいてきちゃった……!」
「はぁ?」

 研究室とは、連絡通路を通っていった先の建物の中にある部屋だ。もっとも、私はそんなところに用はないから行ったことはないのだけど。

「僕、取りに行く!」
「は、え、ちょっと!危ないですよ1人じゃ!それにあっちに行くための連絡通路にはゾンビがいるって」
「4階にもあるんだ、連絡通路。柵が壊れていて危ないからって使われていないだけで。そっちなら向こうの塔からも、こっちの塔からも鍵が掛かっているからまだ何もいないはずなんだ」

 だから4階の連絡通路を使って向こうの塔に行く。そういって聞かないウォルに、私は思わずため息を吐いた。なんだこのわがまま少年は。
 しかし、危険なところに1人で行くと言うくらいには大切なものなのだろう。私にだって、大切なものの1つや2つある。
 4階から行くなら途中でクリスやジルとも会えるだろう。それに、私にだって何か人の助けになることが出来るのなら。
 そう考えて、今度は大きくため息をひとつ吐き出すと、腕を掴んでいた腕を私から掴みウォルの目を見た。

「一緒に行きますよ」
「え……」
「ただ、道は正直わからないですから、案内してくださいね」
「う、うん!ありがとうリンさん!」



 なんて、4階まで登ってきたはいいけれど。

「クリスさんとジルさん、いないですね。まだ下にいるのかな……」

 あたりを見渡してもあるのは壁にもたれ掛かるようにして死んでいるゾンビの山だけで。中央階段のシャッターはしっかり閉まっていて、奥からゾンビたちのうなり声が聞こえる。
 しかし4階の廊下でクリスとジルの姿は確認できなかった。

「大丈夫だよ、シャッターも閉めたんだしそのうち登ってくるって。それより、2人が来る前に行って戻ってきたほうが心配掛けなくてすむんじゃないかな」
「それも、そう、ですね」

 ウォルに腕を引かれながら、今まで一度も使ったことのなかった4階の連絡通路に私は足を踏み入れた。
 そこは確かに彼が言っていた通り柵が壊れているだけの、普通の連絡通路だった。落ちたら危ないから封鎖していたのだろうけど、なら直せばいいと思うのは私だけだろうか。 まあ、こっちの塔に行く人は少ないから2階の連絡通路だけで十分だと考えたのだろうけど。
 びゅう、と風が吹く音がし、続いてガチャっと鍵を開錠する音が響いた。
 建物の中とは違い、うなり声は聞こえない。久しぶりかと思える静穏に、ふっと息を吐く。
 ふと、私を襲う違和感。いや、何がおかしいのかと聞かれたらよく分からないけど、何かがおかしい。それも、今だけでなく、この感覚は――

「なにしてるの、リンさん?早く行って戻ろうよ」
「あ、はい」

 クリスとジルに合流したら言ってみよう。彼らなら、何か分かるかもしれない、たぶん。そうとなれば早くウォルの忘れ物をとってクリスたちと合流しよう。
 私は足早に先ほどまでの校舎よりも暗い校舎の中へと足を進めた。
[ 10 / 22 ]
prev-next
△PAGE-TOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -