命がけのおつかい
 ウォルが考えた作戦に、私は苛立ちを感じていた。彼の作戦は至ってシンプルな囮作戦。
 ウォルが提案した作戦はこうだ。

 まず、制御室に向かうのは私、そしてウォル。私たち制御室班は2階を通り西階段を上がり制御室に向かい、中央階段と5階廊下のシャッターだけを下ろす。大勢のゾンビ達が階を移動しないように、そして5階にいるB.O.Wを閉じ込める為だ。
 そのためにクリスとジルが2階と3階をつなぐ中央階段のゾンビたちを引き付ける。
 しかし、そんなことをすれば3階と4階をつなぐ中央階段にいるであろうゾンビたちも引き寄せることになるだろう。

 私が渋っていた理由はそれだった。囮をさせるということですら嫌だというのに、彼らはかなりのゾンビたちの相手をしなければいけないのだ。それも、たった二人で。
 ウォルは彼らがゾンビや化け物たちと戦いなれているBSAAだから平気だ、なんていっていたが、そんな訳があるはずない。戦術や経験も、量には負けてしまうことが多いのだ。
 だからこそ渋った。しかし、クリスもジルもそれしか今出来ることはないだろうといって微笑むのだ。

「ウォル」
「なに、リンさん?」
「走りましょう。早く終わらせたい」
「……そうだね」

 あたりを警戒するように歩いていた私たちだが、あせる気持ちを抑えきれずに走り出した。
 どうやら私の中でクリスとジルは、大変大切な存在へとなっているらしい。この短時間で、単純なものだ。
 ドクドクと早くなる心臓を置いていくように、私は早く早く足を進めていた。私の少し後ろを、ぴたりとつくようにしてウォルも走っている。健康そうではないウォルには、この速さは少しきついかもしれない。しかし、申し訳ないが私達は2人の命を握っているようなものなのだ。ちんたら走っている余裕はないのだ。
 私は仕方なしにウォルの右手を掴み、更に足を早く進める。後ろで動揺しているような声も聞こえたが、この際無視だ。
 廊下に響く足音。そして、問題の中央階段へと差し掛かった。降りているシャッターの向こうから小さいゾンビの声が聞こえる。大方、ゾンビたちを階段から離すようにして戦ってくれているのだろう。
 やまない銃声に心の中で感謝を述べ、私はまた出せる限りの速さで制御室へと向かった。



 荒々しく開け放った扉の中には、誰もいなかった。
 私はあがった息をそのままに、制御室へと足を踏み入れシャッターを閉めるためのスイッチを探す。
 どれだ、どれだ、はやくはやくはやく!
 制御室の扉が閉まり訪れた静寂に急かされるようにして、私は大きなパネルに食いつく。

「リンさん、見つけた。作動させるよ」
「中央階段と、5階の廊下だけですよ」
「分かってるよ」

 同じく息を切らせていたウォルが、私が張り付いていた場所の隣のパネルを操作した。

『緊急事態発生。緊急事態発生。シャッターが閉まります。周囲の学生、職員は直ちに――』

 抑揚のない放送が制御室に響き渡る。
 息も上がり、足も疲れて思わず座り込んでしまえば、その隣に心配を顔に浮かべたウォルがしゃがむ。

「やりま、したね。作戦、成功、です」

 ゆるゆると右手を上げれば、彼はきょとんとし、そしてすぐに意味を理解したのか、ニッと笑顔を浮かべ手を上げた。
 パンッと響いたハイタッチの音に、私は少なからず達成感を感じた。
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