どうしたらいいかな!なんて電話がきたのは、任務を完了した後のヘリの中だった。念のためにマナーモードにして電源を切ってはいるが、任務遂行中に連絡が来ることは一切ない。タイミングがいいと言うか、なんというか。
最近のユキコからの話題は殆どが想い人であるレオンとのこと。例によって今回もそうなのだが、どうやら手っ取り早く彼を振り向かせたいらしい。
彼女には悪いが、正直無理なのではないかと思いはじめて既に一週間。好きになったらとことん、なユキコにはどうやらストーカー気質があったらしい。
好きな人ができたの!と私に告げてから毎日のように聞いていたレオンへの"ラブラブアタック大作戦"の結果報告は、嫌われても文句の言えない内容のものばかりであった。勿論、この作戦名はユキコ本人が考えた。
それでいて手っ取り早く振り向いて貰おうだなんて、無理にもほどがある。
ユキコを激愛しているし、私だって少なからず彼を想っていた時期があったから微笑ましく、時には驚きーー否、殆ど驚きっぱなしだったような気もするが、話を聞いていたのだ。柄にもなくくっつけば良い、とも思ってはいた。だが、流石にもう無理であろう。
これが最後のアドバイスだ、と疲れきった声で私は耳元の端末に口を開いた。
「押してもダメなら引いてみなさい、相手も大喜びよ」
ねぇ私好きな人ができたの!
疲れきって帰って来た私に、同居人はそう告げて来た。
いつだか聞いた台詞に、私はあぁそう、とだけ返事を返す。
相変わらず冷たい返事だと自分でも思う。
私のアドバイス通りに行動してしまったのなら、きっとレオンとの関係は自然消滅という形で終わってしまっているだろう。あれだけストーカーまがいの事をされて好きになるだなんて、そうとうの物好きくらいだと思われる。ということは、ユキコはレオンがダメになった途端新たな恋を見つけたのかもしれない。
恋をして輝く姿に愛おしさを感じると共に、すぐに乗り換えてしまった様な彼女に若干の失望と苛立ちを感じていた。相手がレオンだったから、ということもあるのかもしれないが。
「写真も撮ったの!」
ほら!と見せられた携帯の画面に、私はため息混じりに視線をやる。
目を、見開いた。パチクリ、と瞬くが、画面が変わることはない。
片手にもっていたカバンが落ち、しっかりしろよとでもいう様に大きめの音を立てて床を叩いた、
見せつけられた画面に映っているのは、幸せそうにはにかむユキコ、そしてその肩を抱きやけにキメた顔をしたレオンのツーショットだった。
脳内だけでは収集つかなくなった疑問が、え、やら、は?やらわけの解らない言葉となって口から漏れる。
「エイダのアドバイス通りにしたら、付き合うことになったの!」
訳が分からない。あのアドバイスを実行してどうしてこうなったのか、レオンをとっ捕まえて小一時間ほど聴取したいくらいだ。
「なんかね!監視カメラも外して電話もやめて、新しく調べたアドレスにメール送るのもやめて、会いにいくのもぜーーんぶやめたら、昨日、目の前に現れたの。それでね、"君の視線が俺に向いていることがどれだけ幸せなのか、視線が無くなってから分かったんだ。"って言われちゃって!」
わざわざ声色を変えて告げられたセリフに頭が痛くなった。
ストーカーされていることに喜びを感じていた?合衆国のエージェントが?それでいいのだろうか。
「エイダのおかげだよ、ありがとう!だいすき!」
あまりの急展開に色々な疑問が頭を埋め尽くしたが、私の大好きな愛らしい笑顔を向けられれば、そんなのもポンと何処かへ行ってしまった。
単純だな、とは自分でも思うがユキコが喜んでいれば案外他のことはどうだっていいのかもしれない。呆れるほどに私は彼女を寵愛しているのだ。世界を股にかけるスパイとしてどうかとは思うが、溺れてしまったのだ、もう仕方が無い。
可愛い可愛い同居人が、昔好いていた男に取られるのは何処となく悔しい様な寂しいような気もするが、とりあえず私はユキコを抱きしめ、おめでとうと一言祝ってやることにした。
押してもダメなら引いてみなさい、相手も大喜びよ
(投げやりすぎたアドバイスが結んだ一つの恋物語)
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