しんしんと降り積もる雪をガラス窓越しに見つめ、私は溜め息を一つ吐いた。
ユキコが自室から出てこないのだ。体調が悪いのかと問えばそうではなく、かと言って部屋から出て来る事も私が入る事も許してくれない。既に時計は午後4時を示している。今日はまだ、一回も彼女の顔を見ていない。
ユキコも年頃の女の子だ。なにかしら秘密ができても仕方ないのは分かっているのだが。
「つまらないわね……」
いや、寂しい、と言った方が的確か。なんだかんだで、あの子も私に甘えてきているし、逆もまた然り。いるのが当たり前になりつつあるのだ。
溜め息をもう一つ吐くと、私は再び窓の外に降る雪を見つめた。
そういえば、ユキコを拾った日も雪の日だった。
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仕事帰り、何故か家の前に落ちていた少女。17、18くらいだろうか。こんな雪の降るような寒い日に何故薄い服に裸足なのだろう。
行き倒れて死んでいるのかと確認してみればまだ息をしていたソレを、私はズルズルと引きずるようにして家にいれた。
家の前で死なれては寝覚めも悪い。そんな理由だった。
疲れた身体に鞭を打ちベッドになんとか寝かせれば、これまた困った。熱があるでは無いか。
面倒なものを拾ってしまったのかもしれない。
疲れているのだが、と思いながらも自分と同じアジア系の顔にやけに親近感を持ってしまったようで、朝まで看病を続けてしまった事には飽きれてしまう。
翌日目が覚めた少女はユキコ、と名乗った。日本人、だとも言った。
それだけだった。それしか、彼女は持っていなかったのだ。所謂記憶喪失というやつだろうか。
どうしましょう?なんて首を傾げたユキコに、ここにいなさいなどと告げてしまったのは、きっと過度の疲労感のせいなのだと思う。
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懐かしい思い出に思わず頬が緩んだ。当初はなんて面倒なものを拾ったんだなどと頭を抱える日々だったが、今となってはその頃の自分に礼を述べたいくらいだ。素敵な拾い物をありがとう、と。
暖かい室内の空気と、冷たく冷やされた外気によって窓がじんわりじんわりと白んでいく。
「エイダ!」
バンッと乱暴に開け放たれた扉から転がり出てきたのは、今まで出てこなかった例の少女。そのまま彼女は私の腰にタックルを決めると、満面の笑みを浮かべて私を見上げて来る。
「あら、内職は終わったの?」
久しぶりに感じるその笑顔の持ち主の頭を撫でながらそう問えば、彼女は笑顔をそのままに私の首に腕を回す。
ふわり、と暖かいものが首に巻かれた。
「プレゼント!こんな雪の日に拾ってくれてありがとう!」
あぁ、ユキコも同じ事を考えていてくれたのか。そう思うと首に巻かれた赤いマフラーも、今まで彼女が出てこなかった時間も愛おしく感じて小さな身体をぎゅうと抱きしめた。
ありがとう、と呟いてユキコを見る。どういたしまして、と返してきた彼女のその胸にはクリーム色のマフラー。
自分のも編んだの?と首を傾げて問えば、彼女は首を横に振り、更に笑みを深めて口を開いた。
「レオン様に差し上げるの!」
手編みのマフラー贈っていいのは二次元の住人だけだからね
(私のだけじゃないのねという、ただの嫉妬)
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