生死と硝煙
「サチエ、か?」
「ル、イス」

 手に馴染まない銃と、緊張と恐怖で響く心臓を連れてそっと覗いた部屋の中に居たのは、背中合わせに座っている二人の男だった。何よりも驚いたのは、その片割れは私がとてもよく知っている人物だということ。癖毛の黒髪が嫌に懐かしい。
 相手も私に気がついたようで、信じられないというように恐る恐る私の名前を口にする。

「お前、帰ってきてたのか……5年ぶり、か」

 ルイスの言葉に小さく頷きながら、私は背中合わせに座ったままの男2人を観察した。
 走ってくるまでに何人もの村人に襲われた。どれも皆懐かしい顔だったが、唯一違うのが瞳の色だった。教会で私を押さえつけた父と同じ赤。
 ブロンドの髪の男性と、そしてルイス。どちらの目も赤い色を宿しては居ない。それに、ルイスとしっかり話も出来る。
 ――多分、二人は”正常”だ。
 私はようやく構えていた銃を降ろし、安堵の息を吐いた。

「何、しているの?漁る女でも居なくなってついに男にでも走った?」
「そんなわけないだろ!捕まってんだよ、ほら!」

 嫌味もかねて投げた言葉は、ルイスの顔を不機嫌そうに歪めた。私はそれを気にすることもなく、示された通りに二人の背中の間に視線を向ける。
 背中合わせの男二人を繋いでいたのは、やけに頑丈そうな手錠だった。確か、村に来た不審者などを捕まえるときに使っていたものだ。

「何かやらかしたわけ?」

 苦笑い気味にそう告げれば、ルイスが再び否定の声を上げた。
 懐かしいやり取り、なんてひっそり思いながら私は座る二人の傍に近寄り手錠を前にしてしゃがみ込む。
 手錠には当たり前だがしっかりと鍵がかけられており、簡単に外すことは出来なさそうだ。いっそ銃で撃ち壊してしまおうかとも考えるが、あいにく二人の手を打ちぬかないという約束が出来るほどの腕前ではない。

「君はルイスの知り合いか?」

 手錠を前にうーんと悩んでいれば、先ほど話していたのとは違う声が振ってきた。
 声もつられるように顔を上げれば、ルイスと共に繋がれている男性が目に入る。投げられた質問に、首を立てに振って肯定すると彼はブロンドの髪を揺らして少し微笑んだ。

「俺はレオン・S・ケネディ」
「私、サチエです。サチエ・グラシア。ルイスの幼馴染です」

 よろしく、と告げれば笑顔のままよろしく、と同じ言葉を返される。
 再び人から手錠へと視線を移せば、すぐに横からルイスが小突いてきた。

「なぁ、お前は……見たんだな」

 質問ではなく確認をするような言葉に、私は思わず俯く。きっと彼の言っている”見た”とは村のことであろう。正確には狂ったようになってしまった村人達のことである。
 頷くことはしなかったが私の態度で肯定と受け取ったのか、そうか、と慣れ親しんだ声が振ってきた。

「……話の腰を折る様で済まないんだが、サチエ少しいいか?」
「あ、はい。何ですか?」
「彼女を知らないか」

 その言葉と共に差し出された写真に、思わず目が大きく開く。
 差し出された写真に写っていた一人の女の子。それは、知っているも何も、先ほどまで一緒に居た人物だった。

「アシュリー……!」
「ヘイ、サチエ!逃げろ!」

 写真に写った人物の名前を口にするのと、ルイスが大きな声を出したのは、ほぼ同時だった。
 逃げろ、と言われルイスを見れば、彼は焦ったようにして部屋の入口を見ている。何事かとその視線を辿り、私は絶句した。

 ズルリ、ズルリと斧を引きずる音。ピタッピタッと滴る血。うつろな目をして入ってきたそれは、先程も会った父だった。しかし、その姿は最後に見たときとは打って変わり、全身傷だらけになっている。

「サチエ!早く逃げろ!」

 後ろでルイスとレオンの声が重なったが、私の体が動くことはなかった。ただ、唇をわなわなと震わせて、斧を手に近づいてくる赤い眼の父を見上げるだけ。

「父、さん」

 乾いた口で小さくそう呟いた。しかし父の歩みは止まらず、着実に私の目の前へと来ている。

 ゆっくりとしたスローモーションのようにも見えた。父が片手に持っていた斧を両手に持ち、それを頭上高く振り上げている。

「やめ、て、父さん」

 もう一度呟いてみるが声は届く気配すら見えず、やがて斧を振り下ろす瞬間をみた。
 
 ドンッという体に走った鈍い音と、金属を叩いたような高い音が鳴り響く。
 一体、今なにがあったというのか。
 無意識に閉じてしまった目を開けば、部屋の外へとへっぴり腰で逃げていく黒髪がチラリと見えた。あぁ、手錠が外れたのか、と鈍い頭で思うと共に振り向けば、寝転がった状態のレオンに今にも斧を振り下ろそうとしている父の姿。
 
 ――何も考えていなかった。
 聞こえたのは鳴り響いた銃声。ドサリと倒れていくのは大好きな父の背中。
 私の手の中にある拳銃から、ゆらりと硝煙が立ち上っていた。


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ルイス好きです。ハンサムなプーのところでは噴出した記憶しかない。
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