高所と脚力
 少し気分が悪いまま水門近くを通り、ようやく私達は目的地に辿り着いた。私の記憶どおり水路があるのは間違いなかったが、滝があることをすっかり忘れていた。水路の水は下に落ちて、小さな滝となっているのだ。

 私達は手分けをして水路をしっかり調べたが、残念ながら紋章は見当たらなかった。もしかしたら、下に隠してあるのかもしれない。
 しかし探しに行くためには、此処から下に降りなければならない。今いる場所から下まで、10メートル近くはあるだろうか。ともかく、下からはだいぶ高い崖のような所に私達は立っていた。
 降りる方法は、すぐ足元から垂れているロープを伝って降りることのみ。

「どうする、ここで待っているか?」
「そう、ですね。降りても上がってこれる気がしませんし……大人しく此処にいます」

 レオンと私の運動能力の差が天と地ほどの差があるのは、此処にくるまでで痛いほどに分かっている。
 正直、梯子の上り下りだけで私を限界を感じるような人間である。筋肉的にも、下を見た恐怖的にも。そんな私が、ロープ1本で降りたり上がったりだなんて出来るはずもない。
 そんなことを考えている間にも、レオンは垂れていたロープをしっかりと掴み下へ降りる準備をしている。掴んだロープを何度か強めに引っ張り、自分の体重が支えられることを確認すると、そのまま崖ギリギリに立ち空に背を預けた。

「お気をつけて」

 私の言葉に小さく頷いたレオンが、すぐさま視界から消える。そっと下を覗けば、たんたんと下に降りていっているのが見えた。本当に運動神経がいいようだ。
 此処にくるまで橋の大穴を飛んだり、岩から結構な距離をとって逃げ切ったり。それだけでなく、蹴りで村人の顎を砕いたり、数メートル先に蹴り飛ばしたりと、彼の華麗なる脚力は思う存分見せ付けられている。
 それに比べて私は大穴を飛び越えられず、岩に追いかけられては転び。村人に斧を投げられたときは腰が抜けて運よく避けられた程度。自分の運動能力の低さには、我ながら涙が出てくる。いや、むしろ私が普通でレオンがおかしいのではないだろうか。

 私が唸っていると、下からレオンの声が投げかけられる。慌てて下を覗き込めば、崖の真下よりもう少し進んだ場所でレオンが小さく手を振っているのが見えた。どうやら無事に降りれたようだ。ホッとしながら、私も小さく手を振り返す。

「何かあります?」
「滝の奥に洞窟が見えるな」
「洞窟……?」

 レオンが指差したのは、私の記憶からすっかり消え去ってしまっていた滝。彼のいる場所からは、その滝の後ろに洞窟が見えるらしい。昔は何もなかったはずだが、人工の洞窟だろうか。

「なんだか、いかにも、って感じですね」

 確かにその洞窟にあったとしてもおかしくない、と言うよりも見渡してみたがそこ以外に大切なものを隠せるようなところが見当たらないのだ。8割方、あそこにあると思って間違いないだろう。
 しかし、それには問題もあるようで。

「勢いが強すぎるな」

 試しに滝に近づいたレオンは、落ちてくる水の勢いに顔をしかめながら再び崖の下まで戻ってきていた。私も上から滝を覗き込めば、水量と落下する高さにより、かなり勢いがあるように見える。
 残念だがこのまま通るのは、無理があるようだ。きっと突っ込んだら勢いでつぶされてしまうかもしれない。
 どうするかと頭をひねる私の視界に映ったのは、少し遠くにあるレバー。そういえば、水門を閉じるレバーがあったような。弄ったことはないから確証はないが、きっとあのレバーを引けば水門が閉じて滝もとまるだろう。

「レオンさん、あそこのレバー、見えますか?」
「ん、あぁ、見える」
「あれ、多分水門を閉める装置です、多分、多分」
「多分って三回言ったな」
「弄ったことないので」

 私がそう伝えれば、レオンはなるほどと言うように首を縦に動かし、レバーのほうへと駆け出していった。きっとこれで滝の裏にあるらしい洞窟にいけるようになるだろう。
 私は近くにあった岩壁に背を預け、数分後に止まであろう滝をじっと見下ろしていた。


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ロープ伝って降りるのは結構大変だと思います
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