「人前でイチャついたのだって――あら、来たわね」
コンコンと軽いノックがハニガンの言葉を遮った。彼女は楽しそうに扉を少し開けると、隙間から差し出された腕から紙袋を受けとる。
「――え?あぁ、貴女の武勇伝を聞かせてあげてたのよ。それより遅いじゃない、マチルダが風邪引いたらその頬張り飛ばすわよ」
恐ろしい言葉を扉の隙間に向けて投げるだけ投げて、ハニガンは少し強めに扉を閉めた。
あの扱いを見るからに、扉の向こうにはレオンがいたのだろう。恥ずかしいやら情けないやら申し訳ないやらで、思わず頭を抱える。
「はい、レオンから」
ハニガンはクスクス笑いながら私の頭を撫でると、そっと紙袋を握らせてきた。
少し重みのある紙袋に視線を向けると、そこには最近有名なブランドのロゴマーク。――かなりお値段のするブランドだ。
「鈍感すぎって言っていたけど、鈍感すぎなのはマチルダの方だったみたいね」
それじゃあデート楽しんで、とにこやかに部屋を後にしたハニガン。
鈍感すぎなのは。
ハニガンの言葉を頭の中で繰り返しながら、私は紙袋から服を引きずり出して目の前で広げた。
「……可愛い」
レースがあしらわれた薄ピンク色のフンワリしたワンピース。
ジワリと再び滲んできた涙を腕で拭い、私はワンピースに袖を通した。
「レオン!」
ロビーを出た先で待っていたレオンを見つけ、私はたまらず抱きついた。レオンは驚いたような顔をしつつも、よろけることなく受け止め、ぎゅうと私を抱き締める。
「珍しいな、こんなところで抱きついてくるなんて。君の苦手な人前だぞ?」
「いいの、抱きつきたくて堪らなかったの」
嫌だった?と首をかしげれば、レオンはふっと笑い私の唇にそれを合わせてきた。
「嫌なわけがない。……服、似合ってる」
ゆるゆると手の甲で私の頬を撫でる。私はそれに擦り寄せるようにして少しはにかんで見せた。
「ありがとう。でも、このブランドって高いんじゃ……」
「男から貰ったプレゼントの値段を聞くのはやぼじゃないか?」
「う……ひゃい」
撫でていた手が私の頬を摘まんだ。返事をしようにも出るのは変な声。
何を言っているのかわからないな、と笑うレオンを誰のせいだとジト目で見上げれば額にキスを落とされた。
至近距離で向けられた笑顔。美形でしかも好きな男に微笑まれて照れないわけもなく。少し顔を逸らせば、それと同時に紙袋と手をとられる。