ジワリと滲んだ涙をグイッと腕で拭い、ズタズタのワンピースとスーツをロッカーに投げ入れると、下着一丁のまま携帯を取りだしハニガンへと電話をかけた。
呼び出し音が3回鳴り響いた後、ガチャッと鳴りオフィスの音が聞こえ始めた。
「もしもしハニガン?悪いんだけど適当に服買ってきてくれないかな。お金後で返すから」
「……わかった」
了承の言葉と共にブツッと切られた電話。私は携帯を耳に当てたまま固まった。
分かった、そう告げたその声。それは明らかにハニガンのものではなかった。
「レオ、ン?」
もしかしてかけ間違えたのだろうかと慌てて履歴を確認したが、そこにはしっかりとハニガンと表示されている。
いったいどう言うことだ、と呆然としていると、ガチャリと音を立てて扉が開いた。
「マチルダ」
「ハニガン…!」
扉を開けて入ってきたのは、心配そうに眉を寄せたハニガン。彼女は心配そうな顔をそのままに私に駆け寄ると、ペタペタと私の剥き出しの肩や腕を撫で始めた。
「大丈夫?怪我は?あぁ、こんなに体が冷えて…下着だけじゃもっと冷えちゃうわ」
なにか着るものは?と首をかしげながらハニガンは私のロッカーを覗いた。中を見るなり彼女のキレイな眉間にシワが寄る。
「酷い、これじゃもう着れないじゃない」
なに考えてるのかしらとトゲトゲしく呟くと、続いて隣のロッカーを開いた。そのロッカーはハニガンが使っている場所だ。
彼女はそこからコートを取り出すと、寒さから鳥肌のたち始めた私の肩にかける。
「服が来るまで羽織ってなさい、風邪引いちゃうわ」
「服って……!やっぱりあの声レオンだったの!?」
そうよ、と微笑んだハニガンに私は頭を抱えた。
嘘だろう、今まで隠してた事がバレてしまったではないか。
「元々知ってるわよ、彼」
「……は?」
にこやかに微笑む彼女とは逆に、私はすっとんきょうな声をあげた。
今、ハニガンは何て言ったのか?元々知ってると言わなかったか。
「最初にすれ違った人に笑われたって私に言ってきたとき、後ろにレオンが立っていたの気がつかなかった?」
「えっ…」
「貴女に話しかけようとしていたみたいだけど、それ聞いた途端難しい顔して帰っていったのよ。貴女は気のせいって流したことを、彼氏は流さなかったみたいね」
「気づかなかった……」
必死に思い返してみるが、近くにレオンがいた記憶なんて一切ない。
いや、気配に敏感だとかそういう能力があるわけではないから、後ろに立たれたら分からないのだが。
「それどころか"自分と付き合っているから嫌がらせで笑われたのかもしれない。自分が近くにいればそういうことは無くなるはずだから、マチルダが何時に出社しているのか教えて欲しい"って言ってきたのよ」
「うそぉ……」
そういえば、あの日からレオンが遅刻している姿も見ない。私の出社時間に合わせて出社していたのか、あの遅刻魔のレオンが?