鈍感
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 やられた。
 私は自分のロッカーを前にして一人呟いた。
 数分シャワーを浴びていた間に何があったのか。

 ロッカーの中はぐしゃぐしゃに荒らされており、私服も、そしてスーツもみるかげも無いほどにズタズタに切り刻まれていた。
 誰が犯人か。何が原因か。考えずとも分かる。
 そもそも、こんな陰湿な所謂"嫌がらせ"は今に始まったことではなかった。

***

 始まりは確か、先月の終わり頃。資料を取りに行った帰りの廊下で、すれ違った女性に何故かクスクスと笑われた。

「…ん?」

 相手は全く知らない人だし、もしかしたら私の格好に変な所があったのだろう。
 そう思ってオフィスに戻るなり仕事仲間のハニガンに確認してみたら「変なところ?無いわ、いつも通り可愛いわよ」とお世辞つきで返ってきた。
 笑われたのはもしかしたら、気のせいだったのかもしれない。被害妄想なんて恥ずかしい事をした。
 そう思いながらその日は帰路についた。

 しかし、どうやら笑われたのは気のせいでは無かった。

 翌日も出社するなり聞こえてきた、どこか小馬鹿にしたような笑い声。
 辺りを見渡せば数人で出来た女性グループが、あからさまに私を見て笑っていた。
 何か私にご用ですか?と問いかければ、返ってきたのは、別にという冷たい返事。
 特に何かした覚えはないのだが、どうやら私は彼女たちに嫌われてしまったらしい。
 原因は分からないが、部署も違うし、まぁいいかと踵を返した時だった。
 先程の女性グループから、女性特有のキャーという黄色い声が飛んできた。
 突然の言葉に驚いて振り向き、さらに驚く。
 キャアキャアと騒ぐ女性達が目をハートにして見つめているのは、颯爽と出社してきたエージェント。

「レオーン!」

 女性たちの態度の変わりように驚きながらも、成る程納得してしまった。

「おはようレオン!」
「今日も素敵よ」
「今日は遅刻しなかったのね」
「一緒に上まで行きましょうよ」

 一気に一人の男性を取り囲む女性たち。それを無下にあしらうことなく爽やかに微笑んでいるのは紛れもなく、私の彼氏だった。
 彼女たちはどうやら、私がレオンと交際しているのがお気に召さないらしい。

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