「師団長が好きです」
私には好きな人がいる。しかし、この想いが叶うことはきっとない。
伝えてしまえば、今目の前に広がる光景と同じことが私にも起こってしまうだろうから。
「そういうの、ホント迷惑なんだよね。くだらない事ばかり言って仕事しないなら辞めてくれる?」
「……っ!!」
苛立ちを隠そうともせず、棘だらけの言葉を放たれた恋する女の子は、その大きな瞳を潤ませて逃げるようにその場から走り去った。
可哀想にとも思うが、彼ーー第五師団師団長であるシンク様に告白をするとこっぴどく振られる、なんてことは既に師団員の間でも噂になっていたのだから覚悟の上だったのでしょう?とも思ってしまう。
だからこそ、私のこの思いを告げることは無い。あまりに気持ちが大きすぎて、あのように振られたら立ち直れなくなるのは目に見えている。
「……で、副師団長サマは立ち聞きが趣味なわけ?」
「シンク様」
背中をこちらに向けているはずなのに、存在を口にされ、私は隠れていた柱の影から体を出した。
「……申し訳ありません。立ち聞きするつもりはなかったのですが、こちらに用があったもので」
「あぁ、その書類か。リグレットのところでしょ」
「はい」
「副師団長サマは、ああいうのと違って仕事が出来て助かるよ」
ゴクローサマ、と。いつも仕事の指示を出すのと大差ない声色で告げられた言葉に、胸がキュウっとする。気をつけていないと、口元が緩んでしまいそうだ。
「……先程届いた書類はいつもどおり、全て振り分けてあります。シンク様の机に提出してあるものは承認印が必要なものですのでお目通しください」
「分かった」
「では、第四師団へ参りますので失礼致します」
上体を曲げて礼をしてから、私は当初の目的であった第四師団へと足を進めた。