私の彼氏は合衆国のエージェントらしい。仕事の内容は正直良くわかっていないけれど、危ない事もしなければいけないことは知っている。
そんな彼は一ヶ月前から仕事で他国へと飛んでいた。
「はぁ……レオーン…」
机に力なく突っ伏した私の溜め息と情けない声が部屋に響く。
レオンの声が聞きたいし、撫でられたいし、ハグだってしたい。滞在中は任務中になるからと電話もメールもできない。
今の私を一言で表すなら、それはまさにレオン不足。
常日頃バカップルみたいにベタベタしているわけではないが、それでも一ヶ月も会えないとなると、もう会いたくて会いたくて溜まらなくなるわけで。
レオンに会えない。ただそれだけで、何だか色々とやる気が起きなくなってくる。
「〜〜んもーっ!私がこんなに寂しがってるんだから、さっさと帰ってこいっつーの、バカレオン!」
何て自己中な。そう自分でも思ったが、どうせこの部屋には自分しかいないし、隣の家もついこの間引っ越したばかりで、誰に聞かれるわけでもないだろう。
そう高を括っていた私は顔を天井に向けて思いっきり叫んだのだ。
勢いよく見上げた先にあるのは真っ白い天井だけ――――ではなく。
「ただいま、マチルダ」
「レ、レオ、ン…?」
思わず目を見開いた。
何故今海外にいるはずのレオンがここに?
そこまで考えて、私はハッとした。
まさか、今の叫びは……。
「バカレオン、じゃないのか?」
笑顔を浮かべたまま小首を傾げるレオンに、私の顔がヒクリとひきつった。
どうやら、しっかりと聞かれていたようだ。
「や、あの、その、さっきのはですね……」
ゴニョゴニョと口の中で言い訳をしながら、ゆっくりと顔を下に向ける。しかし背後に立っていたレオンはそれを許さないとでも言うように、ガッシリと私の両頬を捕まえた。
「マチルダ」
「…はい」
「顔をあげろ」
「……」
「あげるんだ」
「……はい」
お願い、否、脅迫されるままにゆっくりと顔を上げれば、痺れを切らしたように、頬にあった手によって勢い良く上を向かされる。グキッと嫌な音がなった。
「いっ…!ちょっとレオン、なにす……」
痛みに涙目になりながら上げた抗議の声。それは突如降ってきた唇に、パクリと喰われてしまった。